宇宙システム解析検証(宇宙輸送・再突入機のシステム挙動統合シミュレーション技術の構築)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)
報告書番号: R24JDG20155
利用分野: 研究開発
- 責任者: 清水太郎, 研究開発部門第三研究ユニット
- 問い合せ先: 辻 真次郎, JAXA 研究開発部門 第三研究ユニット(tsuji.shinjiro@jaxa.jp)
- メンバ: 藤本 圭一郎, 伊藤 孝行, 河原 昌平, 菊地 正子, 村田 あかり, 中尾 章吾, 辻 真次郎, 椿 直人
事業概要
ロケット上段や宇宙機のリエントリ安全評価(溶融残存デブリによるリスク評価)は宇宙開発の持続性確保の上で重要テーマであり, 革新的将来宇宙輸送システムなどの複雑システムに対応できる総合システム設計, モデルベース設計・開発法の確立も重要である. 本事業ではこの2つの重要テーマの共通課題である『効率的なシステム挙動統合シミュレーション技術開発』を進めており, リエントリ溶融解析コードLS-DARC, 次期基幹ロケット等の新しい輸送システム検討や有人宇宙輸送における安全設計のための宇宙輸送システムの打上・リエントリ統合解析ツールLS-LUCAによるパラメトリックスタディ・確率論的評価のような大規模な解析をJSS上で効率的に実施できる手法の研究・開発を実施する.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
・JAXA職員であれば煩雑で時間を要する手続きなしでクイックに利用可能であること.
・JAXA内システムであるため, 同じJAXAイントラネット内で接続可能であり情報流出のリスクが少ないこと.
・秘匿性の高いロケット上段や宇宙機の設計情報のような機微情報をセキュアにJAXA内で閉じて扱えること.
・システム使用方法等について手厚いサポートが即座に受けられること.
今年度の成果
成果1:ロケット上段のリエントリ溶融解析におけるモデル高精度化の検討
・基幹ロケット上段のリエントリ溶融解析の高精度化, デブリの溶融性を向上させる設計改良(溶融促進設計)を実現するために, 実複雑形状に対する空力特性及び熱流束分布, 3次元的な伝熱, 溶融に伴う形状・熱容量変化を考慮することができるLS-DARCの機能改良に伴う数多くの検証解析, それを用いた実際のロケット上段に対する溶融解析をJSS3の演算能力を利用することで効率的に実施することができた. 実複雑形状や形状変化を扱うことが出来るLS-DARCは, 曲率半径が小さい箇所における熱流束増加や溶融に伴う熱容量の減少が考慮できるため, これまでの解析技術では扱えなかった物体が溶融しやすくなる物理現象を評価可能である(Fig.1および2).
・リエントリ時の6自由度機体挙動, 熱流束レベルのプロファイルを決定する高度・速度時間変化の基礎的な把握, 突入角度を変えた時の機体を構成するコンポーネントに対する熱流束の時間変化, 総入熱量といったデブリ溶融判断に必要な多量データを得ることができた.
・事業の最終目的であるロケット上段の溶融解析高精度化やEC低減を達成するためには, 100個以上のコンポーネントで構成される全機形状について, リエントリ開始時の突入角度や姿勢レート等を振ったパラメトリック解析が必要であり, 市販の計算機では不可能であったが, JSS3を活用することで1ケースあたり20時間で実施可能であることがわかり, 短期間での目標達成をすることができる見込みを得ることができた.
成果2:ロケット上段・宇宙機基礎形状に対するリエントリ溶融解析モデル定式化の改良検討
・現行のリエントリ溶融解析ツールORSAT-Jでは, 複雑物体の形状を円柱, 球, 箱等の基礎形状の組み合わせで取り扱うObject-oritentedモデルであり, デブリ運動を3自由度と仮定し, 空力・熱流束モデル化には半経験的な定式化で扱っている. 本テーマでは, まずはロケット上段や衛星のコンポーネント形状や質量に合わせた6ケースの円柱について, 姿勢レート3成分を1000ケース振った確率論的評価をJSS3の演算能力を利用することで効率的に実施することができた.
・実機に対する溶融解析を通して, デブリの減速ペースに関係する抵抗係数, 総入熱量に対する形状や質量特性の影響を体系的に把握することができた.
・事業の最終目的であるリエントリ溶融解析モデル定式化の改良を達成するためには, 数十ケース以上の形状・質量特性の組み合わせに対して, 1ケースあたり1000回以上のモンテカルロ解析が必要であり, 市販の計算機では不可能であったが, JSS3を活用することで1ケースあたり1000回のモンテカルロ解析を5時間で実施可能であることがわかり, 短期間での目標達成をすることができる見込みを得ることができた.
成果3:宇宙輸送システムの打上・リエントリに関するシステム成立性評価の効率化
・将来輸送システムの検討のためには再使用のためのリエントリ帰還を含めたシステム成立性評価, 有人宇宙輸送への拡張性確保のための打上アボートシステムによる乗員救命の成立性評価のための複数物理分野の連成解析を数多くのシステム設計オプションについて行う必要があるが, JSS3の演算能力を利用することで効率的なシステム成立性評価をすることができ, 設計検討イタレーションを迅速で数多く行うことができるようになった.
・基幹ロケットのリファレンス設計に対する打上・リエントリ時の空力安定性・軌道成立性に加えて, 構造成立性評価を行うことで, 主要な設計パラメータの感度評価をすることができた.
・事業の最終目的である次期基幹ロケットのシステム成立性評価を達成するためには, 数十ケース以上の機体形状・質量特性等の組み合わせに対する空力・軌道・耐熱・構造等の多領域システム成立性評価が必要であり, JSS3の演算能力を活用することで数多くの設計オプションに対する成立性評価をすることができることを確認することができた. 現段階では1オプションに対して10分程度の解析時間に抑えることができている. 今後はさらに解析精度を必要とする亜・超音速における空力特性評価に対する高負荷なCFD解析, 詳細形状に対する耐熱・構造成立性評価のためのFEM解析を短時間で実施できるようにする必要がある.
成果の公表
-査読なし論文
1)Keiichiro Fujimoto, Hideyo Negishi, Shinjiro Tsuji, Kenichi Sato, Tsutomu Matsumoto, Takayuki Itoh, Shohei Kawahara, “COMPARISON OF RE-ENTRY SAFETY ANALYSIS TOOL LS-DARC AND ORSAT-J FOR MODEL UPDATE,” 13th IAASS Conference, 2024.
2)Keiichiro Fujimoto, “DEVELOPMENT OF QUANTITATIVE CREW SAFETY ASSESSMENT METHOD BASED ON MULTI-PHYSICS SIMULATION CODE LS-LUCA,” 13th IAASS Conference, 2024.
-口頭発表
3)辻真次郎, 藤本圭一郎, 根岸秀世, ”宇宙輸送・再突入機の複合物理連成ツールLS-DARC/LUCA の熱流束・空力モデルの検証-第 1 報,” 4O11, 第68回宇宙科学技術連合講演会, 2024.
4)藤本圭一郎, 河津要, 冨田悠貴, 蜂谷友理, 内山崇, “有人宇宙輸送のための打上アボートシステムに関する 定量的安全評価モデルの構築-第 2 報,” 1G18, 第68回宇宙科学技術連合講演会, 2024.
5)神谷卓伸, 藤本圭一郎, 根岸秀世, “上段ロケットに対するデブリ対策の取組み,” 第11回スペースデブリワークショップ.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 1 – 216
- 1ケースあたりの経過時間: 16 時間
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.08
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | CPU利用量(コア・時) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 0.00 | 0.00 |
TOKI-ST | 684791.89 | 0.70 |
TOKI-GP | 9.58 | 0.00 |
TOKI-XM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-LM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TST | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TGP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TLM | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 500.06 | 0.34 |
/data及び/data2 | 500.00 | 0.00 |
/ssd | 36576.67 | 1.96 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
J-SPACE | 4.77 | 0.02 |
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
ISV利用量
利用量(時) | 資源の利用割合※2(%) | |
---|---|---|
ISVソフトウェア(合計) | 0.11 | 0.00 |
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)