静粛超音速機技術の基礎研究
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)
報告書番号: R24JTET01
利用分野: 技術習得方式
- 責任者: 牧野好和, 航空技術部門Re-BooTプロジェクトチーム
- 問い合せ先: 石川敬掲(ishikawa.hiroaki2@jaxa.jp)
- メンバ: 橋元 陽祐, 石川 敬掲, 金澤 遼, 二村 錬, 清水 海斗, 佐久間 健斗, 土屋 隆生, 上野 泰河
事業概要
抵抗低減技術及び低ブーム設計コンセプトを核に, 超⾳速機が旅客機として成⽴するためにキーとなる低ブーム/低抵抗/低騒⾳/軽量機体の全てを同時に満たすシステム統合設計技術及び要素技術を世界に先んじて獲得するため, 鍵技術の開発及び技術実証構想の⽴案を⾏う.
参照URL
「超音速機設計技術の研究開発 | 環境適合性・利便性技術の研究開発プログラム(Sky Green+) | JAXA航空技術部門」参照.
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
システム設計研究においては, 低ブーム/低抵抗/低騒⾳/軽量化の技術⽬標を同時に達成するため多⽬的最適設計法を適⽤しており, 複数の評価指標を効率的に評価するためスパコンによる解析が必須である.
今年度の成果
推進系を主翼下面側に搭載する形態の超音速旅客機は航続性能に優れる一方でソニックブームが大きい. その原因の1つである推進系の構成要素である超音速インテークから発生する衝撃波に注目し, インテークの圧縮方式と搭載方向が与える影響について検討した.
一般的に巡航マッハ数が1.6程度の超音速旅客機では外部圧縮型インテークが採用されるが, 捕獲した超音速流を圧縮するために発生させる衝撃波が推進系の外側に伝播する. そこで, 低ブーム設計を容易にすべく, 圧縮のための衝撃波を推進系内部に留める内部圧縮型インテークへ置き換えることを着想した. 内部圧縮型インテークの1つの技術的課題は, 低いマッハ数域ではエンジンの流量変化に対して衝撃波を内部に留められる作動域が極めて狭いことである. 本研究では, システムの複雑化を避けつつ作動域を拡大することを方針に, 固定形状のインテークのスロート部壁面に多孔抽気を適用することを検討した. 具体的には, 抽気無し(抽気の出口高さとインテークの捕獲高さとの比が0.0)の場合と, 抽気有り(高さ比が0.2, 0.3)の場合の2次元内部圧縮型インテークモデルを解析対象にFaSTARによるCFD解析をJSS3上で実行した(図1). そして, 複数の第2スロート高さ条件における流量比MFRと総圧回復率PR, エンジン運転状態を表す指標であるMFR/PRを評価した(図2). 衝撃波がインテーク内部の設計状態の位置に発生する条件からインテーク外部に排出される直前の条件までのエンジン運転状態の差分ΔMFR/PRの比較から, 抽気を適用することにより設計マッハ数が低い内部圧縮型インテークの作動域を拡大できることを示した.
一方で従来通りに外部圧縮型インテークを採用した場合でも, 衝撃波を地面方向へ伝播させなければソニックブームを抑制できると考えた. 一般的にインテークは, ランプが主翼下面側, カウルが地面側となるように機体へ搭載される. その上下関係を反転させた場合に地上で観測される圧力波形に現れる変化を調べた(図3). そのためにJSS3を使用して, FaSTARによる3次元オイラー解析から機体近傍の圧力波形を取得した. さらに, multipole解析により周方向の圧力伝播を考慮して修正し, Burgers方程式に基づく遠方場への伝播解析により地上波形を評価した(図4). インテークを従来通りに搭載した場合(normal)と比較して反転させて搭載した場合(invert)には, 機体単体の場合(glider)に見られる圧力波形の先端における2段階の圧力上昇が維持されており, 低ブーム性が改善することが分かった.

図1: 内部圧縮型インテーク内に衝撃波が発生する場合のマッハ数分布 (a) hblex/hc=0.0, h2ndth/hc= 0.81, (b) hblex/hc=0.2, h2ndth/hc=0.60, (c) hblex/hc=0.3, h2ndth/hc=0.50
成果の公表
-口頭発表
清水海斗(東京農工大学・院), 三木肇, 赤塚純一, 渡辺安(宇宙航空研究開発機構), "設計マッハ数の低い内部圧縮型超音速インテークの空力特性調査", 第62回飛行機シンポジウム講演集, 橋元陽祐(東京農工大学・院), 三木肇, 赤塚純一, 渡辺安(宇宙航空研究開発機構), "超音速インテークの搭載方向が超音速旅客機の空力性能に与える影響", 第62回飛行機シンポジウム講演集
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 自動並列
- プロセス並列数: 144 - 768
- 1ケースあたりの経過時間: 41 時間
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.25
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | CPU利用量(コア・時) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 4605123.88 | 0.21 |
TOKI-ST | 90524.67 | 0.09 |
TOKI-GP | 86915.63 | 1.34 |
TOKI-XM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-LM | 9050.49 | 0.65 |
TOKI-TST | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TGP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TLM | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 1070.00 | 0.72 |
/data及び/data2 | 153100.00 | 0.73 |
/ssd | 15060.00 | 0.81 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 0.56 | 0.00 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
ISV利用量
利用量(時) | 資源の利用割合※2(%) | |
---|---|---|
ISVソフトウェア(合計) | 2471.69 | 1.69 |
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)