幅広い作動域を有するエンジン設計技術の地上実証-スクラムジェット低速化技術
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)
報告書番号: R24JCMP35
利用分野: 競争的資金
- 責任者: 南里秀明, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 髙橋 政浩(takahashi.masahiro@jaxa.jp)
- メンバ: 福井 正明, 長谷川 進, 井上 拓, 小寺 正敏, 宗像 利彦, 富岡 定毅, 高橋 政浩
事業概要
極超音速空気吸い込み式エンジンは, 有翼式機体との組み合わせにより, 高頻度往還型の宇宙輸送システムや, 高速二地点間輸送に有用であると考えられており, 宇宙基本計画においてもエアブリージング技術の名で重要要素技術とされている. 特に, 高速二地点間輸送の一形態として, 極超音速巡航機は航空輸送の次の市場開拓につながるものとされ, 最近の市場調査でも, 飛行マッハ数が5.5を超える高速巡航機は潜在的な市場性が高いと報告されている. そうした背景から, 近年, 各国で様々なコンセプト検討や技術実証がなされている. しかし, 離陸からマッハ5.5以上までの幅広い速度域で作動可能な単一の空気吸い込み式エンジンは存在せず, 極超音速巡航機の推進系には, 作動速度域が異なる複数のエンジンを組み合わせた複合サイクルエンジンが必要となる. 現在, ターボジェットとラムジェットを組み合わせたTurbine Based Combined Cycle(TBCC)エンジンが開発中, または, 技術実証段階にあるが, これらはマッハ5巡航機への適用を想定している. 潜在的市場性が期待されるマッハ5.5以上の高速巡航機用エンジンとなると, スクラムジェットとの組み合わせが必要となるが, エンジン設計技術が成熟していないことがエンジン実用化の大きな課題となっている. そこで, JAXAは複数の大学と協力して, ターボ・ラムジェットとスクラムジェットとを流路切替え機構を介して組み合わせたTBCCエンジン実現のために必要な要素技術を獲得し, 地上燃焼試験により技術実証することを目標とした5年間の研究プロジェクトに取り組んでいる.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
主要課題の一つ, スクラムジェット低速化を例に取って説明すると, 本研究では, 空気取入口, 燃焼器流路, 燃料噴射器およびキャビティ保炎器の形状選定のために, まずCFDで有力な候補形状を絞込み, 次に, それらの供試体を製作して地上試験を行い, 性能確認するプロセスを多数実施する. 候補形状選定をスケジュールに沿って実施するには, 数多くのパラメトリック計算を限られた期間内に実施する必要がある. 特に, 燃焼器要素のCFDでは, 炭化水素燃料の燃焼過程に多くの中間生成物が含まれ燃焼反応モデルも複雑かつ大規模になるため, 計算コストが著しく増大する. そのため, 高い計算能力を持つJSSの利用が必要不可欠である.
今年度の成果
(1) 幅広い作動域を有するスクラムジェット空気取入口の検討
ターボ・ラムジェットとスクラムジェットを組み合わせたTBCCエンジス実現のための技術課題の一つ, スクラムジェット作動域の低速側への拡張のため, 幅広いマッハ数範囲で作動するスクラムジェット空気取入口の形状についてCFDで検討した. 巡航条件(飛行マッハ数6, 動圧50kPaを想定)で空気捕獲率100%となる2次元多段ランプ圧縮型空気取入口を設計し, オフデザイン条件(飛行マッハ数5, 4, 3.5, 動圧50kPa)での始動性と性能を2D RANSで評価した. なお, 最終的には可動部を導入して低速域での安定作動を確保する必要があるが, 可動部導入を最小限に留めれば, 駆動系や補器類も小型で済み, 実装性の向上と重量増の抑制が期待される. そのため, ベースとなる固定流路形状の作動範囲を最大限に拡張することを目標とした. 図1は外部圧縮3段, 内部圧縮2段の空気取入口の等マッハ数線図である. 左列は空気取入口の出口圧力と入口圧力の比が50, 右列は40で設計した空気取入口の結果である. 設計圧力比50の場合, マッハ4までは始動したが, M3.5では超音速流を取り込めない不始動状態になった. 一方, 設計圧力比を40に下げるとM3.5でも始動状態の解が得られた. 設計圧力比を下げたことで, 内部流路の最小断面積(スロート面積)が拡大し, より多くの空気を取り込めるようになったためである.
(2) 超音速燃焼器および燃料噴射器, キャビティ保炎器の改良設計
改良型燃料噴射器の成立性および有効性を早期に評価するため, 既存の拡大燃焼器供試体に設置可能な改良型燃料噴射器を燃焼CFD評価に基づき選定し, 供試体を製作した. 燃焼試験は次年度に実施予定である. また, 作動領域の拡大, および, 想定飛行ミッションの要求推力レベルの発生を達成するため, 燃料噴射器以外に燃焼器流路形状や保炎器も含めた超音速燃焼器全体の改良検討に着手し, 候補形状の幾つかについて燃焼CFD評価を実施した.
(3) ラムジェット空気流ダクト壁面への熱流束予測
ターボ・ラムジェットのターボジェット周囲に設置されるラムジェット用空気流ダクトの燃料による冷却の成立性を伝熱解析で評価するため, CFDでダクト内面が受ける熱流束を推定した.
成果の公表
-査読なし論文
髙橋政浩, 他, 「幅広い作動域を有するスクラムジェットインレットの検討」第68回宇宙科学技術連合講演会論文集, 1J02, 2024.
-口頭発表
髙橋政浩, 他, 「幅広い作動域を有するスクラムジェットインレットの検討」第68回宇宙科学技術連合講演会, 1J02, 2024.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 48 - 4800
- 1ケースあたりの経過時間: 40 時間
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.84
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | CPU利用量(コア・時) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 22681632.01 | 1.04 |
TOKI-ST | 13448.15 | 0.01 |
TOKI-GP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-XM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-LM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TST | 0.76 | 0.00 |
TOKI-TGP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TLM | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 171.05 | 0.12 |
/data及び/data2 | 13485.79 | 0.06 |
/ssd | 102.67 | 0.01 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 8.46 | 0.03 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
ISV利用量
利用量(時) | 資源の利用割合※2(%) | |
---|---|---|
ISVソフトウェア(合計) | 2763.93 | 1.89 |
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2024年2月~2025年1月)