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極超音速飛行に向けた流体・燃焼の基礎研究

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)

報告書番号: R23JCMP18

利用分野: 競争的資金

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  • 責任者: 沖田耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
  • 問い合せ先: 髙橋 政浩(takahashi.masahiro@jaxa.jp)
  • メンバ: 福井 正明, 長谷川 進, 井上 拓, 小寺 正敏, 高橋 正晴, 富岡 定毅, 高橋 政浩, 高橋 俊, 山田 剛治

事業概要

本研究は, 地上風洞設備で超音速燃焼試験を行う際に問題となる, 風洞気流加熱用燃焼ガスの混入や気流の乱れが燃焼過程に及ぼす影響について, 風洞試験とCFDの両面から現象解明し, こうした風洞依存性の影響を再現できる数理モデルを提案し, それらを組み込んだCFDベースのツールを構築することで, 風洞試験データから実飛行データを推定可能にすることを目標としている. 2022年7月24日, JAXA内之浦宇宙空間観測所からS-520-RD1号機を打ち上げ, 飛行試験を実施して超音速燃焼の実飛行データ取得に成功した. また, 飛行試験と気流条件を合わせた地上燃焼試験を実施し, 実飛行データに対応する風洞試験データを取得した. さらに, 地上試験データによりモデルパラメータを調整したCFDツールにより実飛行データを目標精度内で予測できることを確認し, 地上試験データを実際のエンジン設計に適用するための手法を実証した.

参照URL

https://www.kenkai.jaxa.jp/research/pastres/supersonic.html 参照.

JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点

近年, 燃料として超音速燃焼器でも炭化水素系燃料が注目されていることから, 本飛行試験でも燃料にエチレンを用いる計画である. エチレンの燃焼反応過程は多くの化学種が関与する複雑なものであり, 風洞気流組成の違いを評価可能な反応機構を用いた燃焼CFDは計算負荷が高い. さらに, 試験機供試体形状やそれに搭載する燃焼器供試体の内部流路形状の設計では, 数多くのパラメトリック計算を限られた期間内に実施しなければならない. よって, 高い計算能力を持つJSSの利用が必要不可欠である.

今年度の成果

今年度は, RD1超音速燃焼飛行試験(2022年7月24日実施)およびポストフライト地上試験の試験結果の詳細分析や, 超音速燃焼器性能/極超音速空力加熱予測ツールの整備および検証を引き続き行い, 以下の成果を得た.

(1) 超音速燃焼器性能予測ツールの構築および検証

RD-1プロジェクトで構築した燃焼器性能を予測するCFDツールについて, 飛行試験後にRJTFにて実施した燃焼器試験を題材として, CFD結果の格子依存性調査及び燃焼器出口におけるガスサンプリングデータとの比較を行った. その結果, 格子依存性が比較的大きいこと及び壁圧データと比べてガスサンプリングデータとの一致は不十分であることがわかった. (図1)

(2) 極超音速飛行機体表面熱流束の高効率予測ツールの構築

極超音速流中の表面熱流束を効率的に算出するため, 飛行試験で得られた機体表面の熱流束を, Euler CFDと参照温度法を組み合わせた方法やRANSなどの複数の方法を用いて予測した. その結果, RANSは全体的に実験値を良好に予測したが, Euler CFDと参照温度法を組み合わせた方法は主に表目に凹凸がある領域での熱流束予測に課題があることが分かった. (図2)

(3) Air Data Sensorを用いた動圧計測の精度向上

RD1飛行試験では, Air Data Sensor (ADS)を搭載して飛行中の動圧の変化をモニターし, あらかじめ設定した値を越えたことを検知して, 燃料供給シーケンスを起動し, 超音速燃焼試験を開始した. この動圧検知が超音速燃焼飛行試験の成否を握っており, 試験機ノーズ部に設置した複数の圧力センサの計測値から, 動圧を高精度で推算可能なアルゴリズムの構築が重要課題であった. RD1飛行試験では, 試験機ノーズ部周り流れのCFD結果に基づき, 動圧推算に使用するADS圧力センサおよび各センサ出力の重み係数を決め, それらの線形和より動圧を推算する簡素な方法を採用した. 本年度は, 動圧推算のさらなる高精度化のため, 推算方法を再検討した. まず, 複数の独立変数を用いて従属変数を予測する統計手法である線形重回帰分析を適用した. また, 統計的機械学習の手法(Gradient Boost, Cat Boost, Xgboost)を導入してさらなる推算精度の向上を計り, 大幅な精度向上を達成することができた. (図3)

(4) RD1飛行試験 熱流束計データの分析

RD1飛行試験では, 弾道軌道の降下段階の平均飛行マッハ数約 5.7条件 において, 飛行供試体の表面熱流束を熱流束計を用いて測定した. 熱流束計には, 表面から深さ1mm, 6mm, 11mmの位置に熱電対が取り付けられており, ABAQUSを用いて3点の温度履歴から表面熱流束を推定した.

Annual Reoprt Figures for 2023

図1: CFDとRJTF試験結果との比較(燃焼器出口中心線上における各化学種のモル分率分布

 

Annual Reoprt Figures for 2023

図2: 飛行動圧200kPa時の, 飛行供試体に配置されたセンサー(図中〇印位置)周りの熱流束予測結果. 左右の図はそれぞれ飛行供試体インレット内側と外側の表面熱流束分布を示す. 図の上段は直交格子を用いたEuler解析に対して参照温度法による後処理を行った結果, 下段は非構造格子を用いたRANS解析の結果.

 

Annual Reoprt Figures for 2023

図3: ADS圧力センサ出力をもとに線形重回帰解析を適用して推算した動圧値(赤線)と飛行試験機のレーダー観測データより推算した動圧値(赤線)と飛行試験機のレーダー観測データより推算した動圧値(青線)との比較.

 

成果の公表

-査読付き論文

Takahashi, H., Hasegawa, S., Tani, K., “Simplified Real-Time Flush Air-Data Sensing System for Sharp-Nosed Hypersonic Vehicles,”Journal of Spacecraft and Rockets, September 2023. https://doi.org/10.2514/1.A35634

-査読なし論文

1) 小寺, 髙橋(政), 小林, 富岡, “S-520-RD1飛行試験用スクラムジェット燃焼器のCFDによる性能予測” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, JSASS-2023-2071-A, 2023年.

2) Kodera, M., Takahashi, M., Kobayashi, K., and Tomioka, S., “Construction and Validation of a CFD Prediction Tool of Scramjet Combustor Performance for a Flight Experiment,” AIAA Paper 2024-1192, 2024.

3) 高橋(俊), 山田, 小寺, 極超音速流れにおける埋め込み境界法を用いた複雑形状周りの熱流束予測,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2B13 (JAXA-SP-23-009), 2023年.

4) 高橋(俊), 山田, 竹腰, 谷, “直交格子法による流体と固体内部熱伝導の連成解析,” 第37回数値流体力学シンポジウム講演論文集, 1406-10-05, 2023年.

5) Takahashi, S., Yamada, G., Kodera, M., Takegoshi, M., “Prediction of surface heat flux in hypersonic flow based on immersed boundary method and reference Temperature method,” AIAA Paper 2024-0647, 2024.

6) Tani, K., Takasaki, T., Hasegawa, S., “The Analysis of Flight Trajectory of S-520-RD1,” Proceedings of the 34th ISTS, 2023-m-01, 2023.

7) 谷, 小寺, 竹腰, 長谷川 進, 高橋(俊), “S-520-RD1号機における, 数値解析活用について,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2B10, 2023年.

8) 長谷川, 谷, “極超音速飛行試験を行う上での空気力学上の諸問題について,”第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2B11, 2023年.

9) 長谷川, 谷, “極超音速飛行実験におけるエアデータセンサの評価と動圧の統計解析,”第36回計算力学講演会講演論文集, GS-0008, 2023年.

10) Hasegawa, S., Tani, K., “Evaluation of Air Data Sensors and Statistical Analysis of the Dynamic Pressure of Hypersonic Flight Experiments,” AIAA Paper 2024-2681, 2024.

11) 竹腰, 小寺, 長谷川, 吉田, 谷, 田口, 富岡, 髙橋(政), 百瀬, “S-520-RD1号機飛行試験供試体開発段階における熱・構造・振動解析”, 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2B14, 2023年.

12) 竹腰, 高橋(俊), 山田, 谷, “S-520-RD1飛行試験とRJTF風洞試験による空力加熱計測結果の差異について,” 令和5年度宇宙輸送シンポジウム講演論文集, STCP-2023-033, 2024年.

-口頭発表

1) 小寺, 高橋, 小林, 富岡, “S-520-RD1飛行試験用スクラムジェット燃焼器のCFDによる性能予測” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2023年.

2) Kodera, M., Takahashi, M., Kobayashi, K., and Tomioka, S., “Construction and Validation of a CFD Prediction Tool of Scramjet Combustor Performance for a Flight Experiment,” AIAA SciTech 2024 Forum and Exposition, 2024.

3) 高橋(俊), 山田, 小寺, “極超音速流れにおける埋め込み境界法を用いた複雑形状周りの熱流束予測,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2023年.

4) 高橋(俊), 山田, 竹腰, 谷, “直交格子法による流体と固体内部熱伝導の連成解析,” 第37回数値流体力学シンポジウム, 2023年.

5) Takahashi, S., Yamada, G., Kodera, M., Takegoshi, M., “Prediction of surface heat flux in hypersonic flow based on immersed boundary method and reference Temperature method,” AIAA SciTech 2024 Forum and Exposition, 2024.

6) 高橋(俊), 山田, 小寺, 竹腰, 谷, “空気吸い込みエンジンによる極超音速飛行試験の熱流束予測,” 令和5年度宇宙輸送シンポジウム, 2024年.

7) 谷, 高崎, 長谷川, “The Analysis of Flight Trajectory of S-520-RD1”, ISTS, 2023.

8) 谷, 長谷川, “S-520-RD1号機における, 数値解析活用について,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2023年.

9) 長谷川, 谷, “極超音速飛行試験を行う上での空気力学上の 諸問題について,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2023年.

10) 長谷川, 谷, “極超音速飛行実験におけるエアデータセンサの評価と動圧の統計解析,” 計算力学講演会, 2023年.

11) 長谷川, 谷, “Evaluation of Air Data Sensors and Statistical Analysis of the Dynamic Pressure of Hypersonic Flight Experiments,”AIAA SciTech 2024 Forum and Exposition, 2024.

11) 長谷川, 谷, “極超音速飛行実験におけるエアデータセンサデータの統計分析について,” 令和5年度宇宙輸送シンポジウム, 2024年.

12) 竹腰, 小寺, 長谷川, 吉田, 谷, 田口, 富岡, 髙橋(政), 百瀬, “S-520-RD1号機飛行試験供試体開発段階における熱・構造・振動解析,”第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2023年.

13) 竹腰, 高橋(俊), 山田, 谷, “S-520-RD1飛行試験とRJTF風洞試験による空力加熱計測結果の差異について,” 令和5年度宇宙輸送シンポジウム, 2024年.

JSS利用状況

計算情報

  • プロセス並列手法: MPI
  • スレッド並列手法: OpenMP/自動並列
  • プロセス並列数: 960 – 2000
  • 1ケースあたりの経過時間: 120 時間

JSS3利用量

 

総資源に占める利用割合※1(%): 2.02

 

内訳

JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。

計算資源
計算システム名 CPU利用量(コア・時) 資源の利用割合※2(%)
TOKI-SORA 54335930.63 2.45
TOKI-ST 57971.89 0.06
TOKI-GP 0.00 0.00
TOKI-XM 0.00 0.00
TOKI-LM 2592.02 0.20
TOKI-TST 0.00 0.00
TOKI-TGP 0.00 0.00
TOKI-TLM 0.00 0.00

 

ファイルシステム資源
ファイルシステム名 ストレージ割当量(GiB) 資源の利用割合※2(%)
/home 699.52 0.58
/data及び/data2 48938.50 0.30
/ssd 5135.50 0.49

 

アーカイバ資源
アーカイバシステム名 利用量(TiB) 資源の利用割合※2(%)
J-SPACE 10.12 0.04

※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

 

ISV利用量

ISVソフトウェア資源
利用量(時) 資源の利用割合※2(%)
ISVソフトウェア(合計) 2808.91 1.27

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)