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燃焼解析技術

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)

報告書番号: R23JG3212

利用分野: 研究開発

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  • 責任者: 清水太郎, 研究開発部門第三研究ユニット
  • 問い合せ先: 芳賀 臣紀, 研究開発部門 第三研究ユニット(haga.takanori@jaxa.jp)
  • メンバ: 青野 淳也, 安部 賢治, 大門 優, 福島 裕馬, 芳賀 臣紀, 濱戸 昭太郎, 伊藤 浩之, 桐原 亮平, 倉田 博文, 川島 康弘, 根岸 秀世, 中島 健賀, 大野 真司, 清水 太郎, 志村 啓, 坂井 玲太郎, 堤 誠司, 高木 亮治, 多湖 和馬, 渡部 修, 山本 姫子

事業概要

実スケールの液体ロケットエンジン内の非定常現象を捉えるため, 燃焼LES解析に必要な物理モデル及び計算手法を構築する. サブスケール試験との比較検証により解析ツールを開発し, 実機エンジンの開発に適用する.

参照URL

https://stage.tksc.jaxa.jp/jedi/simul/index.html 参照.

JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点

燃焼室内の流れ場は乱流状態でかつ,非定常な特性を有するため,LES解析が必須となっている.本検証対象でも数千万~数億セルの格子に対して,数百万~数千万ステップ程度の解析計算が必要であるため,スパコンの利用なしには到底目標を達成できない.

今年度の成果

実機スケールの液体ロケットエンジン燃焼器の高精度な解析を実現するため, 高次精度スキームであるFlux Reconstruction(FR)法をベースとする燃焼ソルバーLS-FLOW-HOを開発中である. 数百本の同軸型噴射器を計算する大規模な燃焼LESを実用化するため, 1)高速ソルバーの開発, 2)計算負荷を低減する物理モデルの開発の2本柱で開発を進めている. 大型1段エンジンの解析に適用するため, 燃焼圧が超臨界圧力の単相流れのソルバー開発をメインに行っている. 本年度は, 実機スケール燃焼器解析への足掛かりとするために噴射器42本のサブスケール燃焼器の燃焼LESを実施し, プリポスト処理も含め機能改良を行った.

1. 高速ソルバーの開発

CPU(A64FX)向けの高速化チューニングは概ね完了したため, 本年度はスキームの改良による解像度の向上(同じ解像度に対する計算点数の削減)を実施した.

密度比が数百倍となる燃焼ガス・液体酸素(LOX)の界面の数値振動を抑えるために物理量分布の近似に多項式(高次精度)とセル平均値(1次精度)を混合するリミッターを採用している.

従来ソルバーでは混合係数の決定にエントロピーの極小値を制約条件としていたが, 近似多項式の次数が高いほど界面の解像度が低下するという問題があった.

文献(Dzanic & Witherden, JCP 2022)と同様にエントロピーの空間分布だけでなく時間変化も制約条件に考慮したところ, 過度なリミッターを掛けることなく数値安定性を高めることに成功した.

これにより高次精度スキームによる超臨界圧燃焼解析が可能になった.

2. 物理モデルの開発(反応壁面モデル)

燃焼器壁面の熱流束を予測するため, 化学反応を考慮した乱流境界層の壁面モデル(Muto et al, IJHMT 2019)の検証を行った. サブスケール燃焼器を対象とした燃焼LESでは, 燃焼器の平行部壁面に沿って境界層が発達する途中の格子解像度が低い所で数値不安定が発生しやすい. 特に高次精度スキームでは, 境界層内層を解像しない壁面モデルLES格子における壁面垂直方向の速度および温度の勾配の誤差により数値安定性が低下することが明らかになった(Fukushima & Haga IJNMF 2024). 壁面垂直方向の勾配の評価法を改良し, さらに平衡壁面モデルの仮定に基づくサブグリッドスケール渦粘性を導入した.

3. サブスケール燃焼器(噴射器42本)のLES解析

大規模な燃焼振動解析の検証例としてDLRのBKD燃焼器(LOX/GH2)のLES解析を実施した. 同軸型の噴射器42本を有する複雑形状の格子作成を容易にするためオーバーセット格子法を利用した. 噴射器およびチャンバーの音響固有値と発熱変動のカップリングを考慮するため, 上流はLOXおよびGH2のマニホールド形状を考慮し圧力無反射境界条件(流量・温度を固定)を設定し, 下流側は超音速ノズルによる流出条件としている. 計算点数は約10億点である. 計算結果(温度の瞬時場)を図1に示す. ポスト処理のデータサイズ削減を目的とし, In-situ可視化ソフトKombyneを利用し, JSS3上で動作することを確認した. 初期条件から燃焼圧が静定するまで(物理時間で約2 msec)に要した計算時間は約70時間(1000 CPUs使用, 70000 NH)であり, 燃焼振動の解析にはこの10倍程度の計算資源が必要となる見込みである.

Annual Reoprt Figures for 2023

図1: DLR BKD燃焼器(LOX/GH2)のLES計算結果. 瞬時の温度と速度分布. 計算点数は約10億点.

 

成果の公表

-査読付き論文

1) Fukushima, Y. and Haga, T., “On robust boundary treatments for wall-modeled LES with high-order discontinuous finite element methods,” International Journal for Numerical Methods in Fluids, 2024.

-査読なし論文

1) 芳賀, 清水, 布目, “液体ロケットエンジン同軸型噴射器における水素噴射温度低下時の燃焼不安定解析,” 日本航空宇宙学会 第54期定時社員総会および年会講演会

2) 芳賀, 多湖, “GPUによる圧縮性燃焼ソルバLS-FLOW-HOの高速化,” 第55回流体力学講演会/第41回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム

3) 芳賀, “高次精度非構造格子法による液体ロケットエンジン燃焼器のLES,” 計算工学 Vol.28, No.3

4) 芳賀, “正値性およびエントロピー条件を満たす高次精度非構造格子法による衝撃波-乱流干渉解析,” 2023年度衝撃波シンポジウム

5) Blanchard, S. and Haga, T., “Development of a diffuse interface methodology in a high-order flux-reconstruction framework,” The 11th International Conference on Multiphase Flow

-口頭発表

1) 芳賀, “高次精度燃焼ソルバLS-FLOW-HOのGPUによる高速化,” 第37回数値流体力学シンポジウム

2) Haga, T., “Discontinuous Capturing Schemes for LOX/GH2 Liquid Rocket Engine Combustor Simulations by Flux-Reconstruction Method,” International Conference on Spectral and High Order Methods (ICOSAHOM) 2024

JSS利用状況

計算情報

  • プロセス並列手法: MPI
  • スレッド並列手法: OpenMP
  • プロセス並列数: 1 – 8000
  • 1ケースあたりの経過時間: 336 時間

JSS3利用量

 

総資源に占める利用割合※1(%): 1.98

 

内訳

JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。

計算資源
計算システム名 CPU利用量(コア・時) 資源の利用割合※2(%)
TOKI-SORA 45885851.92 2.07
TOKI-ST 1021642.75 1.10
TOKI-GP 80550.18 1.05
TOKI-XM 0.00 0.00
TOKI-LM 1367.59 0.10
TOKI-TST 182174.36 2.99
TOKI-TGP 0.00 0.00
TOKI-TLM 0.00 0.00

 

ファイルシステム資源
ファイルシステム名 ストレージ割当量(GiB) 資源の利用割合※2(%)
/home 2668.53 2.22
/data及び/data2 156964.19 0.97
/ssd 3430.50 0.32

 

アーカイバ資源
アーカイバシステム名 利用量(TiB) 資源の利用割合※2(%)
J-SPACE 180.34 0.65

※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

 

ISV利用量

ISVソフトウェア資源
利用量(時) 資源の利用割合※2(%)
ISVソフトウェア(合計) 47823.03 21.59

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)