将来輸送システムの研究(空気吸い込み式輸送システム)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)
報告書番号: R23JG3205
利用分野: 研究開発
- 責任者: 沖田耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 小寺 正敏(kodera.masatoshi@jaxa.jp)
- メンバ: 福井 正明, 長谷川 進, 磯野 達志, 井上 拓, 小寺 正敏, 大西 陽一, 小川 哲司, 田野 貴史, 高橋 正晴, 富岡 定毅, 高橋 政浩, 高橋 俊
事業概要
近年, 宇宙輸送システムの大幅な低コスト化のために, ロケットの再使用化が考えられている. しかしながら構造寿命を長くするために比較的低いエンジン出力で作動させる必要があり, 打ち上げ能力の低下につながる. したがって, それを補う手段として空気吸込み式エンジンであるスクラムジェット及びロケット/スクラム複合サイクルエンジンが有望視されている. 大気中の空気を酸化剤として利用することにより高効率となり, 再使用化でも打ち上げ能力の維持向上が期待できる. 本事業では, 同エンジンの実用化に向け鍵となる技術の研究開発を行う.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
地上実験によるエンジン設計の問題点として, 以下の点が挙げられる. 1)離陸から超高速域までの様々な気流条件を再現するには限界がある. 2)測定値が限られエンジン内部の複雑な3次元流れ構造を把握できない. 3)時間・費用が限られるためエンジン流路形状を容易に変更できない. したがって設計ツールとして3次元CFDの活用が必要不可欠であり, 数多くのCFDを効率良く実行するためにスパコンが必要となる.
今年度の成果
(1) スクラムジェット燃焼器要素の燃焼試験では, 比較的低コストかつ高頻度で試験を行うことができる直結式燃焼器試験がよく用いられる. この試験方法では, 実際のエンジンの空気取入口で圧縮された後の空気流を, 燃焼加熱器付き超音速風洞のノズル気流で模擬し, 設備ノズル出口に燃焼器模型を取付けて燃焼試験を行う. 境界層を含むノズル気流の全量が燃焼器模型に流入するので, 燃焼試験結果の検討や燃焼試験に対応したCFDを行う時に, ノズル出口の気流条件を正確かつ詳細に把握する必要がある. そこで, 燃焼加熱器付き超音速風洞の内部の詳細な燃焼CFDに着手した. (図1) また, ノズル流れ計測に用いる超小型ピトー管レークプローブのピトー管設置間隔もCFDにより決定した. 今後, ノズル出口面のピトー圧分布計測結果や気流組成計測結果との比較による解析結果の検証を経て, ノズル気流特性の詳細について検討する計画である.
(2) 高頻度宇宙往還機を開発するために, 主に, 角田宇宙センターではエンジン研究を長年行ってきた. しかし, エンジンと機体を統合して, それらの干渉効果を調べることが重要になってきた. そのため, 軌道解析等を行い最適化された機体とエンジンを別々にシミュレーションした空力特性とエンジンとを統合した機体のシミュレーションを実行して, 比較検討等を行った. 図2には, マッハ数4での飛行状態の数値シミュレーション結果を示している.
(3) 乱流, 衝撃波, 化学反応が複雑に相互作用するスクラムジェット燃焼器において, 内部構造を正確に理解するためにはより詳細な乱流構造を考慮する必要がある. 数値解析において燃焼機内をモデルによる簡略化を用いないDNSによって解析を行う場合, 計算コストが膨大なものとなる. そこで, 乱流を一部モデル化するLESと全てモデル化するRANSを複合したHybrid LES/RANSモデルの利用が計算コスト削減につながる. 加えて, 燃焼器上流の乱流構造を考慮するため, 流入境界を時間変化させて計算するrecycling / rescaling methodを用いることで, 更なる計算コスト削減を実現できる. そこで, スクラムジェット燃焼器内の解析に向け, これらの手法を併用しつつ, 燃焼器上流の解析を行った. (図3) 今後, 不具合の修正と計算高速化に向けたコード修正を経て, 燃焼器全体の解析を行う計画である.
(4) シャープ前縁に対する空力加熱と材料内部への伝熱を高速に解析出来るツールを開発して, 風洞実験の加熱予測を行って実験値と比較を行った. (図4)
図3(ビデオ): 燃焼器上流の未燃焼流れの変化:中央断面における主流方向速度分布 (流入条件:マッハ数:2.3 静温:144.6 K 静圧:4.01 MPa)
図4(ビデオ): 冷却孔を備えた前縁近傍部が極超音速気流によって加熱された際の材料内部の温度分布と計算格子
成果の公表
-査読なし論文
(1) 髙橋政浩, “燃焼加熱式超音速風洞ノズル気流の境界層内ピトー圧分布計測用プローブの試作,” 第63回航空原動機・宇宙推進講演会/北部支部2024年講演会 ならびに第5回再使用型宇宙輸送系シンポジウム, JSASS-2024-0074, 2024.
-口頭発表
(1) 髙橋政浩, “燃焼加熱式超音速風洞ノズル気流の境界層内ピトー圧分布計測用プローブの試作,” 第63回航空原動機・宇宙推進講演会/北部支部2024年講演会 ならびに第5回再使用型宇宙輸送系シンポジウム, 2B03, 2024.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 256 – 4800
- 1ケースあたりの経過時間: 200 時間
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.82
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | CPU利用量(コア・時) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 20185428.68 | 0.91 |
TOKI-ST | 209614.28 | 0.23 |
TOKI-GP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-XM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-LM | 1236.11 | 0.09 |
TOKI-TST | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TGP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TLM | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 232.02 | 0.19 |
/data及び/data2 | 21587.50 | 0.13 |
/ssd | 2565.50 | 0.24 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 10.12 | 0.04 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
ISV利用量
利用量(時) | 資源の利用割合※2(%) | |
---|---|---|
ISVソフトウェア(合計) | 13013.84 | 5.87 |
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)