将来輸送システムの研究(空気吸い込み式輸送システム)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2021年2月~2022年1月)
報告書番号: R21JG3205
利用分野: 研究開発
- 責任者: 沖田耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 小寺 正敏(kodera.masatoshi@jaxa.jp)
- メンバ: 福井 正明, 藤原 瑞月, 磯野 達志, 井上 拓, 小寺 正敏, 宗像 利彦, 富岡 定毅, 高橋 政浩, 髙橋 英美
事業概要
近年, 宇宙輸送システムの大幅な低コスト化のために, ロケットの再使用化が考えられている. しかしながら構造寿命を長くするために比較的低いエンジン出力で作動させる必要があり, 打ち上げ能力の低下につながる. したがって, それを補う手段として空気吸込み式エンジンであるスクラムジェット及びロケット/スクラム複合サイクルエンジンが有望視されている. 大気中の空気を酸化剤として利用することにより高効率となり, 再使用化でも打ち上げ能力の維持向上が期待できる. 本事業では, 同エンジンの実用化に向け鍵となる技術の研究開発を行う.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
地上実験によるエンジン設計の問題点として, 以下の点が挙げられる. 1)離陸から超高速域までの様々な気流条件を再現するには限界がある. 2)測定値が限られエンジン内部の複雑な3次元流れ構造を把握できない. 3)時間・費用が限られるためエンジン流路形状を容易に変更できない. したがって設計ツールとして3次元CFDの活用が必要不可欠であり, 数多くのCFDを効率良く実行するためにスパコンが必要となる.
今年度の成果
(1)炭化水素燃料スクラムジェット燃焼器のRANS解析
ジェット燃料の熱分解後の燃料を模擬したメタン/エチレン混合燃料を用いたキャビティ付き超音速燃焼器の3DRANS解析結果について考察を行った. 第一に, 実験結果との比較について, 壁圧分布は概ね良く一致したが, 一方で出口当量比分布は定性的な一致に留まった. 次に, 各種CFDパラメータの結果への感度について調べたところ, 特に供給空気総温の影響が大きく, その評価精度が実験の予測精度に重要であることがわかった. 最終的に, 混合燃料中のエチレン割合を変化させたところ, ある割合を境にラム・スクラムの作動モードが変化した. このことより, 熱分解成分を正しく理解することが作動モードを制御する際に重要な要素であることがわかった. (図1)
(2)燃焼試験を支えるCFD
スクラムジェットエンジンの研究では, 燃焼器流れの解析の他に, 燃焼試験の検討やデータ整理に必要な情報を得る目的で試験設備内の流れ場の解析も行っている. その一例として, ラムジェットエンジン試験設備(RJTF)のM6ノズル流れのCFDについて述べる. RJTFは, 蓄熱体加熱装置や燃焼加熱装置を用いて試験気体である空気を加熱し, 最高で飛行マッハ数8相当条件(ノズル出口マッハ数6.7)の気流を発生できる. 蒸気エジェクタ装置により低圧を保たれた低圧室内に最大で長さ3mのエンジン模型を設置して試験できる大型設備である. RJTFの設備ノズルの断面形状は矩形である. これは設備運用開始当初, ノズル境界層を, 極超音速飛翔体の機体上に生じる境界層に見立ててエンジン模型内に取り込む試験形態を想定していたためである. さらに, 出口端面は, エンジン模型の後退角付きインレット先端に合わせて斜めに切り落とされている. 近年, RJTFでノズル境界層をエンジン模型に取り込まないフリージェット式エンジン試験を行う機会が増えており, 斜めに切り落とされた矩形ノズル後端形状がノズル気流の非一様性にどのように影響するかをCFDで評価した. 図2は, ノズル軸方向の各断面におけるマッハ数分布を示している(スパン方向は座標が正の領域のみ表示). ノズル後端の底板端から高さ方向に, また, 側壁端からスパン方向に膨張波が形成され, 主流外縁部の流れを外向きに膨張させ, その影響範囲は下流に行くほど主流の内側にも広がっている. こうした情報はエンジン模型設置位置の検討や対応CFDの流入気流条件設定に参照される.
(3)FADSシステムの開発
昨年度に引き続き, 尖頭形状極超音速機の飛行時における気流条件や姿勢角といったair dataを推定するためのFlush Air-Data Sensing (FADS)システムの設計を行った. FADSは機体表面の圧力情報とair dataとを結びつけ, 計測された機体表面圧力からair dataを推定するシステムである. 本研究での設計対象とした飛行条件はマッハ5.0~7.0, 姿勢角±5.0°以下で, データセットはCFDにより作成した. 表面圧力とair dataを結びつける近似式を構築した. CFDによる元データと, 設計したFADSによる推定値との比較を行った結果, air dataとして, 動圧では5%以内の誤差範囲で推定可能であることを示した.
(4)Hybrid LES/RANSモデルの妥当性検証および評価
スクラムジェットエンジン燃焼器内で重要な現象である乱流境界層を解くためには, 境界層内部に高い格子解像度が求められる. そこで, 壁面付近については, 全ての乱流渦をモデル化して計算するRANS, 壁面から離れた位置については, 格子幅よりスケールの大きい渦に対しては直接的に数値計算を実行するLESに切り替えることで計算コストを下げるHybrid LES/RANSモデルの使用が有効であると考えられる. 平板境界層問題によってモデルの妥当性を検証すると共に, スクラムジェット燃焼器内の乱流燃焼現象の解析に向けて計算精度や初期条件の影響を評価した. (図3)
図3(ビデオ): 3次元Hybrid LES/RANS解析による平板境界層上のマッハ数分布
成果の公表
-査読なし論文
(1) Kodera, M., Tomioka, S., and Takahashi, M., “RANS Simulations of a Supersonic Combustor with Methane/Ethylene Mixed Fuel,” Proceedings of 33rd International Symposium on Space Technology and Science, 2022-a-11, 2022.
(2) 髙橋英美, 田口秀之, 廣谷智成, 大木純一, 佐藤哲也, “極超音速飛行実験機用エアデータ計測システムの設計,” 第53回流体力学講演会/第39回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウムオンライン論文集, JSASS-2021-2029-A, 2021年.
-口頭発表
(1) Kodera, M., Tomioka, S., and Takahashi, M., “RANS Simulations of a Supersonic Combustor with Methane/Ethylene Mixed Fuel,” 33rd International Symposium on Space Technology and Science, 2022.
(2) 髙橋英美, 田口秀之, 廣谷智成, 大木純一, 佐藤哲也, “極超音速飛行実験機用エアデータ計測システムの設計,” 第53回流体力学講演会/第39回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウムオンライン, 2021年.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 144 – 4800
- 1ケースあたりの経過時間: 21 時間
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.04
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | CPU利用量(コア・時) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 228140.73 | 0.01 |
TOKI-ST | 129659.64 | 0.16 |
TOKI-GP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-XM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-LM | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TST | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TGP | 0.00 | 0.00 |
TOKI-TLM | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 390.07 | 0.39 |
/data及び/data2 | 30302.57 | 0.32 |
/ssd | 636.29 | 0.16 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 5.37 | 0.04 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
ISV利用量
利用量(時) | 資源の利用割合※2(%) | |
---|---|---|
ISVソフトウェア(合計) | 848.42 | 0.59 |
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2021年2月~2022年1月)