2020年度 JSS利用状況
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)
2020年度はJSS2とJSS3の併設運用となり, JSS3が段階的に導入され2021年3月からフル稼働している. 調布航空宇宙センター設置システムの2020年度運用は次の通り.
■JSS2運用期間:2020年4月1日 ~ 2021年2月28日
■JSS3運用期間:2020年12月1日 ~ 2021年3月31日
※JSS2/JSS3の主な諸元は, 補足1を参照ください.
JSS2/JSS3のジョブ充填率推移
JSS2は2016年4月から稼働開始し, 当初ジョブ充填率は50%以下だったが, 1年後には80%以上となり, 以降90%以上の高いジョブ充填率で運用された.
JSS3は導入初期の比較的計算機リソースにゆとりがある時期に合わせて大規模チャレンジを実施したことで, 充填率85%以上に運用効率を高めた. また, フル稼働の2021年3月には90%以上の高いジョブ充填率を示し, JSS2からのシームレス移行を成功させている.
図1: JSS2/JSS3ジョブ充填率
JSS3初期の利用傾向
JSS2では実行できなかった大規模ジョブがJSS3では多数実行されており, ユーザプログラムの移行が順調に行われている. また, プログラムの大規模化と大規模パラメットリックスタディの二極化が進んでいる.
表1: 並列度別利用割合
図2: プロセス並列度と利用料の相関
リソース配分
利用枠組みは5つに分類され, それぞれの枠組みに適した利用率保障, ジョブの実行優先度制御が設定されており, 研究開発成果の最大化を効果的に実現している.
枠組み | 概要 | 保証 |
---|---|---|
重点利用 | プロジェクト要請などJAXAの戦略的な取り組み利用 | 50% |
一般利用 | 一般的な研究開発課題の利用 | – |
小規模利用 | 試験的・萌芽的な小規模計算(事業コードの設定不要) | 4% |
JSS大学共同利用 | 大学共同利用設備としての利用 | 5% |
設備共用 | 民間等外部機関による有償利用 補足2 (無償トライアルユース制度あり) |
10% |
年度別推移
JSS利用枠組みの実績
重点利用の占める割合が毎年増加し, 2020年度JSS2は全体の50%に達した. また, 2020年度JSS3の重点利用は, 25%以上を占め順調に移行されている.
図3: JSS利用分類毎のリソース配分の推移
部門別の実績
宇宙輸送技術部門の利用がJSS2当初約10%から2020年度は3倍以上に増加している. 研究開発部門は, 基礎研究も含まれるが宇宙輸送技術部門のプロジェクト支援もあり, 2部門の合計は全体の約40%に達している. 航空技術部門は毎年40%以上を占め, JSS2の利用は航空部門, および宇宙部門に広がっている.
図4: 部門別の推移
2020年度部門別利用枠組み実績
JSS2/JSS3の部門ごとの分野別利用状況を, 図5,図6に示す. 各部門ともJSS2からJSS3にジョブ移行しており, また, JSS大学共同利用,学生実習などアウトリーチのジョブも含めて順調にJSS3でジョブ実行できている.
JSS3ではHQ部門の一般利用枠増加が大きい. これは通常運用では実行できない大規模チャレンジ(JSS3全体システムの1/2規模ジョブ)を実施したことによる. 第53回流体力学講演会/第39回航空数値シミュレーション技術シンポジウム(ANSS一般)「新JAXAスパコンシステムJSS3」セッションにて成果報告されている.
図5: JSS2 部門別利用枠組み別利用状況
図6: JSS3 部門別利用枠組み別利用状況
2020年度重点利用課題
重点利用課題は、次の3つのカテゴリからなる.
・プロジェクト等の確実な実施に不可欠なもの
・JAXA外部との連携により社会に広く貢献するもの
・JAXAの中長期目標実現に向けて計算科学の観点から特に推進すべき研究開発
審査の結果, 表3にある6課題が採択された.
事業名 | 事業の範囲/構成 | 担当部門 |
---|---|---|
プロジェクト等の確実な実施に不可欠なもの | ||
H3プロジェクト | H3ロケット総合システムの開発(試験機の打ち上げ及び飛行後評価を含む) | 宇宙輸送技術部門 |
航空研究開発事業 | 機体騒音低減技術の研究開発(FQUROH+) | 航空技術部門 |
JAXA外部との連携により社会に広く貢献するもの | ||
衛星利用促進事業 | 中央省庁,地方自治体,大学,民間などとの連携による,衛星利用の推進 | 第一宇宙技術部門 |
衛星リモートセンシングに係る研究 | 課題分野研究 | 第一宇宙技術部門 |
衛星利用運用事業 | 全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)及び熱帯降雨観測衛星(TRMM)/降雨レーダ(PR)運用事業 | 第一宇宙技術部門 |
JAXAの中長期目標実現に向けて計算科学の観点から特に推進すべき研究開発 | ||
航空科学技術研究 | 統合シミュレーション技術の研究開発 | 航空技術部門 |
重点利用から見ても, JSS3への移行が入出力データを含めて円滑に進み, 第4四半期の処理に対応できた. JSS2/JSS3に占める重点利用と事業毎の利用状況を図7,図8に示す.
図7: JSS2事業別重点利用状況
図8: JSS3事業別重点利用状況
2020年度 大規模チャレンジの実施
換装直後に大規模計算の専用ノードを確保することで, 通常運用では実行できない大規模チャレンジ(JSS3全体システムの1/2規模ジョブ)にて, 理学的,工学的に大きな飛躍を先導する解析を目的に実施. 詳細は下表4参照.
所属機関 | 宇宙航空研究開発機構 | 宇宙航空研究開発機構 | 北海道大学 |
所属 | 研究開発部門第3研究ユニット | 航空技術部門 | 大学院理学研究院地球惑星科学部門 |
申請者 | 芳賀臣紀 | 南部太介 | 竹田裕介 |
課題名 | ①フルスケール液体ロケットエンジン燃焼器のLES
Large-eddy simulation of a full-scale liquid rocket engine combustor |
②Interface-resolved DNSによる複数液滴蒸発の大規模解析
Large-scale analysis of multi-droplet evaporation by interface-resolved DNS |
③大規模フルカラートモグラフィデータの3D可視化:ヒトの網膜の解像度を突破する
Beyond the human eye resolution: 3D visualization of full-color tomographic images |
申請時の最大使用システム | TOKI-SORA×2670 node | TOKI-SORA×607 node (1400node×2ケース:23億セル規模をトライ) |
TOKI-XL×2 node |
具体的な成果 ※詳細は, 利用成果報告 FHC01 FHC02 FHC03 参照 |
計算不安定のため計算が完了しなかったが, その後の調査・検討の結果, 原因についてほぼ特定できた. ノズルなしであれば実機の噴射条件で解析ができるようになり, 現在, LE-9エンジンのプロジェクト支援解析に適用している. | 液滴群の蒸発を世界で初めて明らかにした. 2023年中の高精度化モデル完成を見込んでいる. | 世界初となるヒトの網膜の解像度や視覚認知限界を超えた3D可視化を達成した. これにより, 隕石や玄武岩など宇宙科学に関連する重要な試料の高解像度の観察や解析が可能となる. |
実績コア時間(秒) | TOKI-SORA 40,972,445.31 TOKI-RURI(ST) 103,790.33 |
TOKI-SORA 47,053,305.01 TOKI-RURI(ST) 871.86 TOKI-RURI(LM) 217.31 |
TOKI-RURI(ST) 514,040.16 TOKI-RURI(LM) 2,098.32 TOKI-RURI(XM) 14,219.10 |
可視化技術
可視化技術は,計算結果をより正確にできるだけ早く解析するために必須の技術である. スーパーコンピュータ活用課では, JSS3/TOKI-RURIに各種可視化ツールを用意しており, 利用者は研究内容に合わせた可視化を行うことができる.
● 大規模計算結果の可視化
計算結果がある程度以上のサイズになり通常の可視化環境で可視化できなくなる場合には, 可視化チームが適切な方法をアドバイスしている. 複雑な大規模模可視化の例を下図に示す.
図9: 航空機解析コア技術開発
図10: H3ロケットの打ち上げ時の
射場周りのシミュレーション
● 可視化の新技術
新可視化技術の利用を進めており, 代表的なものとして, 3Dプリンタを利用した立体的可視化, MR(Mixed Reality: 複合現実)技術を用いた可視化がある. 会議等で見えないところを共有して見ることを実現している.
図11: 透明樹脂を使った3Dプリンタモデル
(航空機ランディングギア周り)
図12: MR技術を使った3D立表示
(コンパウンドヘリコプタ)
補足 JSS3設備供用有償利用単価
項目 | 料金 | |
直接経費 | 基本利用料 | 10,283円/月 |
ノード利用料 | SORAシステム単価 0.00568 円/(ノード・秒) RURI(ST)システム単価 0.01478 円/(ノード・秒) RURI(GP)システム単価 0.06241 円/(ノード・秒) RURI(XM)システム単価 0.22911 円/(ノード・秒) RURI(LM)システム単価 0.03430 円/(ノード・秒) (SORAシステムは、500(ノード・時)を超える利用時間が課金対象) |
|
ファイル利用料 | ファイル単価 0.11781 円/(GB・月) (500(GB・月)を超える割当て容量が課金対象. また, JAXAが認めた容量に限る) |
|
アーカイバ部利用料 | JAXAが認めた必要最低限の容量まで無料. 但し, 最大400TBまで. |
|
一般管理費 | 直接経費の9.3% |
上記, 利用料, 条件など変更される場合があります. 最新情報は下記URLをご確認ください.
https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/facility/facility69/
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)