燃焼解析技術
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)
報告書番号: R20JG3212
利用分野: 研究開発
- 責任者: 清水太郎, 研究開発部門第三研究ユニット
- 問い合せ先: 芳賀 臣紀, 研究開発部門 第三研究ユニット(haga.takanori@jaxa.jp)
- メンバ: 伊藤 孝行, 高木 亮治, 堤 誠司, 伊藤 浩之, 清水 太郎, 青野 淳也, 芳賀 臣紀, 安部 賢治, 筧 雅行, 本江 幹朗, 菱田 学, 根岸 秀世, 大西 陽一, 西元 美希, 大門 優, Hosangadi Ashvin, 深澤 修, 大野 真司, Zambon Andrea, 中島 健賀, 雨宮 孝, 梅村 悠, 藤原 大典, 谷 洋海, 藤本 圭一郎, 王丸 哲文, 福田 太郎, 外山 雅士, 西村 彗, 武藤 大貴, 菅野 望, 渡辺 毅, 福島 裕馬, 多湖 和馬, 熊畑 清
事業概要
実スケールの液体ロケットエンジン内の非定常現象を捉えるため, 燃焼LES解析に必要な物理モデル及び計算手法を構築する. サブスケール試験との比較検証により解析ツールを開発し, 実機エンジンの開発に適用する.
参照URL
https://stage.tksc.jaxa.jp/jedi/simul/index.html 参照.
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
燃焼室内の流れ場は乱流状態でかつ,非定常な特性を有するため,LES解析が必須となっている.本検証対象でも数千万セルの格子に対して,数百万ステップ程度の解析計算が必要であるため,スパコンの利用なしには到底目標を達成できない.
今年度の成果
フルスケールロケット燃焼室の非定常数値シミュレーション実現に向けた要素技術の開発の一環として, Large eddy simulation(LES)によるメタン/酸素サブスケール燃焼室の数値解析を実施した. 計算にはJAXA内製CFDソルバであるLS-FLOWを使用した. 壁面近傍のモデル化として, 新たに開発した炭化水素反応流の熱伝達予測のための壁面モデルを適用した. 燃焼モデルとして非断熱flamelet progress variable法を採用した. 格子点数は約4200万点である. 図1に瞬間の温度分布を示す. 本解析により, 燃料と酸化剤の非定常な混合や, 複雑な乱流燃焼場の形成, 壁面近傍での境界層の発達がよく捉えられている.
乱流燃焼LESの抜本的な解像度向上と計算コスト低減によるフルスケール燃焼器解析を目指して, 高次精度非構造格子法である流束再構築法をベースとする内製CFDソルバLS-FLOW-HOを開発した. 本年度は, フルスケール燃焼器の壁面熱流束の予測に必要な乱流境界層の壁面モデルを開発し, 高圧燃焼器の解析に不可欠な実在気体モデルの導入に成功した.
初めに, 非燃焼の壁面応力モデルと流束再構築法を組み合わせた壁面モデルLES計算手法を開発した. 特に, 壁面近傍の流れ場を十分に解像していない場合の壁面境界条件の影響を調査し, 安定かつ高精度な手法を開発した. 検証として, チャネル内に剥離, 再付着があるperiodic hillの流れを解析した. Periodic hill内ではhill後部に大きな再循環領域があり, 境界条件の与え方によっては不安定や誤差の原因になるが, 本研究で開発した境界条件手法により安定かつ高精度に計算することが確認できた(図 2). 現在は反応流に拡張された壁面モデルの検証を進めており, 壁面モデルLESによってフルスケール燃焼室内での壁面熱伝達の予測が向上することが期待できる.
次に, 液体ロケットエンジン燃焼器内に噴射される極低温の液体酸素とガス水素の混合を計算するため, SRK状態方程式とChungの輸送系数モデルを採用した. 密度比が非常に大きな界面を安定に計算するため, 近似多項式の正値性を保持するリミッターを導入した. 燃焼モデルにはflamelet progress variable法を採用した. 計算対象は同軸のLOX/H2シングルインジェクターであり, DLR LampoldshausenのP8試験施設で実施された6 MPaの条件とした. 計算セル数(ヘキサ2次要素)は約86万であり, 自由度は約2300万点(p2, 3次精度)である. 温度分布の計算結果を図3に示す. JSS3 TOKI-SORA(FX 1000)システムの320ノード(1280プロセス×12スレッド, MPI/OpenMPハイブリッド並列)を利用し, 物理時間10 msの解析に必要なwall clock時間は約27時間であった.
図3(ビデオ): LOX/H2同軸シングルインジェクターの乱流燃焼LES(温度分布, 動画).
成果の公表
-査読付き論文
1) Daiki Muto, Yu Daimon, Hideyo Negishi, Taro Shimizu, Wall modeling of turbulent methane/oxygen reacting flows for predicting heat transfer, International Journal of Heat and Fluid Flow, 87, 108755, 2021, 10.1016/j.ijheatfluidflow.2020.108755.
-査読なし論文
1) 福島裕馬, 芳賀臣紀, 流束再構築法による高レイノルズ数チャネル流れの壁面モデルLES, 第34回数値流体力学シンポジウム, A03-3, 2020年.
2) 芳賀臣紀, 清水太郎, 流束再構築法による超臨界窒素噴流のLES, 第34回数値流体力学シンポジウム, B06-2, 2020年.
3) 芳賀 臣紀, 福島 裕馬, 多湖 和馬, 高次精度非構造格子法によるWall-modeled LESに向けて, 流体力学講演会/航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム2020オンライン, 2C01(JSASS-2020-2081-A), 2020年.
4) 多湖 和馬, 芳賀 臣紀, 福島 裕馬, 堤 誠司, 高木 亮治, GPUによる非構造高次精度解析法を用いた圧縮性流体ソルバの高速化, 流体力学講演会/航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム2020オンライン, 2C05(JSASS-2020-2085-A), 2020年.
-口頭発表
1) 芳賀臣紀, 坂井玲太郎, 福島裕馬, 村山光宏, 雨宮 孝, 伊藤浩之, Flux-Reconstruction法によるNASA-CRMの低速・高迎角流の非定常解析, 流体力学講演会/航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム2020オンライン, 1A14, 2020年.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 32 – 11520
- 1ケースあたりの経過時間: 27 時間
JSS2利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 4.06
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 23,239,733.70 | 4.40 |
SORA-PP | 130,917.89 | 1.03 |
SORA-LM | 22,693.60 | 13.32 |
SORA-TPP | 0.69 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 9,015.89 | 8.26 |
/data | 119,666.32 | 2.31 |
/ltmp | 26,104.25 | 2.22 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 153.08 | 5.07 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 3.87
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 18,932,823.94 | 4.07 |
TOKI-RURI | 319,875.87 | 1.83 |
TOKI-TRURI | 0.02 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 13,680.86 | 9.38 |
/data | 199,452.12 | 3.34 |
/ssd | 5,708.60 | 2.98 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 153.08 | 5.07 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)