将来輸送システムの研究(空気吸い込み式輸送システム)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)
報告書番号: R20JG3205
利用分野: 研究開発
- 責任者: 沖田 耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 小寺 正敏(kodera.masatoshi@jaxa.jp)
- メンバ: 高橋 政浩, 小寺 正敏, 福井 正明, 宗像 利彦, 富岡 定毅, 髙橋 英美, 井上 拓, 藤原 瑞月, 磯野 達志
事業概要
近年, 宇宙輸送システムの大幅な低コスト化のために, ロケットの再使用化が考えられている. しかしながら構造寿命を長くするために比較的低いエンジン出力で作動させる必要があり, 打ち上げ能力の低下につながる. したがって, それを補う手段として空気吸込み式エンジンであるスクラムジェット及びロケット/スクラム複合サイクルエンジンが有望視されている. 大気中の空気を酸化剤として利用することにより高効率となり, 再使用化でも打ち上げ能力の維持向上が期待できる. 本事業では, 同エンジンの実用化に向け鍵となる技術の研究開発を行う.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
地上実験によるエンジン設計の問題点として, 以下の点が挙げられる. 1)離陸から超高速域までの様々な気流条件を再現するには限界がある. 2)測定値が限られエンジン内部の複雑な3次元流れ構造を把握できない. 3)時間・費用が限られるためエンジン流路形状を容易に変更できない. したがって設計ツールとして3次元CFDの活用が必要不可欠であり, 数多くのCFDを効率良く実行するためにスパコンが必要となる.
今年度の成果
(1)尖頭形状極超音速機の飛行時における気流条件や姿勢角といったair dataを推定するためのFlush Air-Data Sensing (FADS)システムの設計を行った. FADSは機体表面の圧力情報とair dataとを結びつけ, 計測された機体表面圧力からair dataを推定する. 本研究での設計対象とした飛行条件はマッハ5.0~7.0, 姿勢角±6.0°以下で, データセットはCFDにより作成した. 鈍頭形状物体を対象として確立されたアルゴリズムと, 尖頭形状等を対象としたlookup table方式を組み合わせた推定手法を構築した. CFDによる元データと, 設計したFADSによる推定値との比較を行った結果, air dataとして, 気流条件で6%以内, 姿勢角で0.7°以内の誤差範囲でair dataが推定可能であることを示した.
(2)後ろ向きステップから気流に平行に水素を噴射するスクラムジェット燃焼器内の2次元RANS解析を行った. コードのバリデーションを行うとともに, 乱流シュミット数・乱流プラントル数及び化学反応モデルの影響を評価した. 酸素を含まない不活性ガスを主流に用いた非反応試験では, 実験と比較して燃料の拡散混合を精度よく捉えることができた. 一方, vitiated airを用いた反応試験では, 実験よりも着火遅れ時間を短く見積もったが, 図1のように火炎は燃料噴射位置よりも下流で安定した.
(3)炭化水素燃料スクラムジェット燃焼器の性能向上のため, 改良案の検討をCFDで行った. また, 性能向上が期待される形状について実際に供試体を製作して燃焼試験を行い, その有効性を確認した. 図2は, 2段式斜め噴射器と保炎用キャビティのみの基本形態と, 噴射孔脇の壁面に膨張ランプを加工した改良型形態との流跡線の比較である. 線の色は, ダクト入口の値で無次元化した静温を表している. 膨張ランプを追加して主流空気を保炎キャビティ内に多く取り込むことで, キャビティ内の燃料濃度を適正化し, 燃焼促進を狙ったものである. 燃焼試験においても, 改良型形態では, 基本形態より高い燃焼圧力を得ることができ, 改良の有効性が確認された.
(4)昨年度に引き続き, メタン/エチレン混合燃料を用いたキャビティ付き超音速燃焼器の3DRANS解析を実施し, 特にメタン/エチレン混合比を変えた場合の燃焼流れ場構造の変化について検討を行った. (図3)
(5)九州大と, 高速作動域拡大に向けたスクラムジェットエンジンの最適化に関する共同研究を実施し, 今年度は燃焼器の混合性能に着目して, 燃料噴射器形状の最適化を行った.
図1(ビデオ): スクラムジェット燃焼器の2次元RANS燃焼解析による燃焼器温度分布
成果の公表
-査読なし論文
藤原瑞月, “スクラムジェット燃焼器の数値解析における乱流特性および化学反応モデルの影響について”, 慶應義塾大学卒業論文, 2021年3月.
JSS利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 32 – 180
- 1ケースあたりの経過時間: 90 時間
JSS2利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 1.16
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 6,550,451.49 | 1.24 |
SORA-PP | 95,912.07 | 0.75 |
SORA-LM | 0.00 | 0.00 |
SORA-TPP | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 200.81 | 0.18 |
/data | 5,852.08 | 0.11 |
/ltmp | 5,071.93 | 0.43 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 3.37 | 0.11 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JSS3利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.13
内訳
JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
TOKI-SORA | 478,788.00 | 0.10 |
TOKI-RURI | 46,236.16 | 0.26 |
TOKI-TRURI | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 296.03 | 0.20 |
/data | 10,508.77 | 0.18 |
/ssd | 622.70 | 0.33 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) | J-SPACE | 3.37 | 0.11 |
---|
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2020年4月~2021年3月)