非線形フォースフリー磁場計算による「ひので」観測に基づく太陽コロナ磁場推定
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)
報告書番号: R19JU0912
利用分野: 宇宙科学
- 責任者: 斎藤義文, 宇宙科学研究所太陽系科学研究系
- 問い合せ先: 清水敏文(shimizu.toshifumi@jaxa.jp)
- メンバ: 川畑 佑典, 清水 敏文, 長谷川 隆祥
事業概要
太陽系最大の爆発現象である太陽フレアの発現機構を理解することを目的とする.
太陽観測衛星「ひので」で観測された太陽表面磁場を用いて3次元の磁気流体力学計算を行うことで, 上空のコロナにおける3次元磁場構造を推定する.
推定された3次元磁場構造とフレア発生の関係を探る.
参照URL
「ひのでプロジェクトのホームページ:TOP PAGE」参照.
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
スパコンの大規模計算環境を利用して太陽観測衛星「ひので」の高空間分解能の磁場を用いた3次元の磁気流体力学計算によるフォースフリー磁場モデリングを行う. 3次元の磁気流体力学計算を用いて, 3次元磁場の緩和を行うため, 多くの計算資源が必要となる.
今年度の成果
太陽爆発現象の発現機構を知るためにはコロナの磁場の測定が必要となるが現状の偏光分光観測では難しい状況である. 代替策としてコロナの3次元磁場構造を外挿する非線形フォースフリー磁場(NLFFF)モデリングが有効な手段となる. 太陽コロナではローレンツ力のみで力学的平衡が成り立つとするフォースフリー近似(∇xB(x)=α(x)B(x))が妥当である. 観測された光球磁場データを境界条件として与え, この非線形の方程式を数値計算で解く事で, 3次元磁場情報を得る事ができる. しかし, 光球ではこのフォースフリー近似が破綻しているという指摘があり (Gary 2002), 上空の磁場がNLFFFモデリングでどれだけ正確に再現できているかは定かではない. 今年度は光球の約1000 km上空の彩層磁場の直接観測に取り組み, 光球から外挿した彩層磁場と直接観測の比較を行なった. ねじれ度合いに着目し, ポテンシャル磁場からの角度のずれを比較したところ(図1)観測された彩層磁場は光球に比べてねじれていることがわかった. さらに直接観測した彩層磁場は外挿した結果にくらべもて30-40度近くねじれていることが明らかになった.

図1: 左:活動領域のポテンシャル磁場からの方位角のずれ(Shear signed angle:SSA)の空間分布. 上から順に, 光球観測, NLFFF外挿の1500km地点, 彩層観測. 右: 左図の白枠で囲まれた領域のSSAのヒストグラム. 黒が光球観測, 青がNLFFF外挿の1500km地点, 赤が彩層観測を示す.
成果の公表
-招待講演
川畑佑典, 「太陽大気偏光分光観測の現状と展望」, 太陽研連シンポジウム, 東京, 2020年2月
-口頭発表
川畑佑典, Andres Asensio Ramos, 井上諭, 清水敏文, 「彩層磁場:He I 10830 A観測と非線形フォースフリー磁場外挿の比較」, 太陽偏光ワークショップ, ゲッティンゲン, 2019年8月
川畑佑典, Andres Asensio Ramos, 井上諭, 清水敏文, 「活動領域の3次元磁場構造~EUVST時代の展望~」, 天文学会秋季年会, 熊本, 2019年9月
-ポスター
川畑佑典, Andres Asensio Ramos, 井上諭, 清水敏文, 「彩層磁場:He I 10830 A観測と非線形フォースフリー磁場外挿の比較」, ひので-13, 東京, 2019年9月
JSS2利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 1 – 192
- 1ケースあたりの経過時間: 20 時間
利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.01
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 0.00 | 0.00 |
SORA-PP | 0.00 | 0.00 |
SORA-LM | 0.00 | 0.00 |
SORA-TPP | 5,750.94 | 0.35 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 25.61 | 0.02 |
/data | 254.85 | 0.00 |
/ltmp | 5,208.34 | 0.44 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.00 | 0.00 |
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)