将来輸送システムの研究(空気吸い込み式輸送システム)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)
報告書番号: R19JG3205
利用分野: 研究開発
- 責任者: 沖田耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 小寺 正敏(kodera.masatoshi@jaxa.jp)
- メンバ: 高橋 政浩, 小寺 正敏, 福井 正明, 宗像 利彦, 高橋 正晴, 富岡 定毅, 荒川 拓也, 西口 拓伸, 栗原 航, 林 一成, 髙橋 英美
事業概要
近年, 宇宙輸送システムの大幅な低コスト化のために, ロケットの再使用化が考えられている. しかしながら構造寿命を長くするために比較的低いエンジン出力で作動させる必要があり, 打ち上げ能力の低下につながる. したがって, それを補う手段として空気吸込み式エンジンであるスクラムジェット及びロケット/スクラム複合サイクルエンジンが有望視されている. 大気中の空気を酸化剤として利用することにより高効率となり, 再使用化でも打ち上げ能力の維持向上が期待できる. 本事業では, 同エンジンの実用化に向け鍵となる技術の研究開発を行う.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
地上実験によるエンジン設計の問題点として, 以下の点が挙げられる. 1)離陸から超高速域までの様々な気流条件を再現するには限界がある. 2)測定値が限られエンジン内部の複雑な3次元流れ構造を把握できない. 3)時間・費用が限られるためエンジン流路形状を容易に変更できない. したがって設計ツールとして3次元CFDの活用が必要不可欠であり, 数多くのCFDを効率良く実行するためにスパコンが必要となる.
今年度の成果
(1)メタン/エチレン混合燃料を用いたキャビティ付き超音速燃焼器の3DRANS解析を実施し, 境界条件や物理モデルに対する解の感度を調査し, またメタン/エチレン混合比を変えた解析を行った.
(2)エチレンに関する簡易反応モデルを検証するために, 超音速燃焼器流れの2DRANS解析を実施し, 詳細反応モデルとの比較を行った.
(3)スクラムジェット燃焼器に対してHybrid LES/RANSを用いた非燃焼解析を行った. 燃料の分布は非定常に変化する様子が観測された. 特に燃焼器に取り付けられたキャビティ付近での変動が大きく, 周期的な変化が見られた. (図1)
(4)極超音速機の機体後部外部ノズルに対し, 推力性能に及ぼす飛行条件の影響評価として, 環境圧の影響と迎角の影響を, CFDによるノズル表面周りの流れ場のシミュレーション結果を基礎として調べた. その結果, 外部ノズル壁面形状を特性曲線法にて設計し, ボートテイルを付加することで, あらゆる機体姿勢においてベースライン(単拡大ノズル)よりも優位な性能を示すことが分かった. (図2)
(5)スクラムジェット燃焼器試験に使用される燃焼加熱式超音速風洞の試験気流総温が, 燃焼加熱器や設備ノズルの水冷式壁面への熱損失により理論計算値より低くなることが懸念されたため, 設備内部流に対して三次元燃焼CFDを適用し, 総温低下の評価に着手した. (図3)
(6)大規模剥離を伴うスクラムジェット燃焼器のラムジェットモード作動について, RANSによる予測精度を向上するための方策を検討した. 特に乱流St数やPr数の決定方法について, Scalar Fluctuation Modelの適用や, 圧縮性補正を試みた. 圧量回復のための擬似衝撃波の予測に問題を残した.
図1(ビデオ): 当量比分布の周期変動
成果の公表
-査読なし論文
[1] 林一成, 松尾亜紀子, 小寺正敏, 高橋政浩, 富岡定毅, “衝撃波/乱流境界層干渉問題に対する乱流モデルの検討, ” 2019年度衝撃波シンポジウム講演集.
[2] 髙橋英美, 宗像利彦, 佐藤茂, “極超音速機外部ノズルの性能に対する飛行条件の影響評価, ” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演集, JSASS-2019-2052-A.
[3] Nishiguchi, H., Kodera, M., and Tomioka, S., “Optimization of Mode Transition of a Dual-Mode Scramjet Combustor,” ISTS paper 2019-a-36, 2019.
[4] 西口拓伸, “燃焼モードの変化を考慮したスクラムジェット燃焼器の解析精度向上に関する研究, ” 東北大学大学院工学研究科 修士学位論文, 2020.
-口頭発表
[1] 髙橋英美, 宗像利彦, 佐藤茂, “極超音速機外部ノズルの性能に対する飛行条件の影響評価, ” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム.
[2] Nishiguchi, H., Kodera, M., and Tomioka, S., “Optimization of Mode Transition of a Dual-Mode Scramjet Combustor,” 32nd International Symposium on Space Technology and Science and 9th Nano-Satellite Symposium, 2019.
JSS2利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 1000 – 2224
- 1ケースあたりの経過時間: 144 時間
利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 2.21
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 17,282,337.40 | 2.10 |
SORA-PP | 657,926.61 | 4.26 |
SORA-LM | 935.58 | 0.39 |
SORA-TPP | 394.86 | 0.02 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 139.88 | 0.12 |
/data | 15,730.19 | 0.27 |
/ltmp | 9,749.35 | 0.83 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
J-SPACE | 1.84 | 0.05 |
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)