極超音速飛行に向けた流体・燃焼の基礎研究
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)
報告書番号: R19JCMP18
利用分野: 競争的資金
- 責任者: 沖田耕一, 研究開発部門第四研究ユニット
- 問い合せ先: 髙橋 政浩(takahashi.masahiro@jaxa.jp)
- メンバ: 髙橋 政浩, 小寺 正敏, 宗像 利彦, 福井 正明, 高橋 正晴, 長谷川 進, 富岡 定毅, 高橋 俊
事業概要
本研究は, 地上風洞設備で超音速燃焼試験を行う際に問題となる, 風洞気流加熱用燃焼ガスの混入や気流の乱れが燃焼過程に及ぼす影響について, 風洞試験とCFDの両面から現象解明し, こうした風洞依存性の影響を再現できる数理モデルを提案し, それらを組み込んだCFDベースのツールを構築することで, 風洞試験データから実飛行データを推定可能にすることを目標としている. 最終的には, 飛行試験を実施して実飛行データによるツール検証を行う計画である.
参照URL
なし
JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点
近年, 燃料として超音速燃焼器でも炭化水素系燃料が注目されていることから, 本飛行試験でも燃料にエチレンを用いる計画である. エチレンの燃焼反応過程は多くの化学種が関与する複雑なものであり, 風洞気流組成の違いを評価可能な反応機構を用いた燃焼CFDは計算負荷が高い. さらに, 試験機供試体形状やそれに搭載する燃焼器供試体の内部流路形状の設計では, 数多くのパラメトリック計算を限られた期間内に実施しなければならない. よって, 高い計算能力を持つJSS2の利用が必要不可欠である.
今年度の成果
(1) 飛行試験用超音速燃焼器の内部流路形状の設計
昨年度に引き続き, 飛行試験機に搭載する超音速燃焼器供試体の内部流路形状について, 燃料であるエチレンと空気のSkeletal反応機構を用いた三次元RANS解析による設計検討を行った. 同供試体の設計要求は, 超音速燃焼モードでの作動, かつ, 地上風洞試験と飛行試験での気流組成の違いにより圧力計測で識別できる燃焼圧力の差が生じることである. 今年度は, 保炎キャビティの形状や燃料噴射形態が燃焼器の作動特性に及ぼす影響を調べ, 本飛行試験に適した候補形態を絞り込んだ. なお, この検討結果に基づき, 複数の燃焼器供試体を製作して燃焼器単体での燃焼試験を実施し, 最終候補形状を選定した. さらに, 空気取入口を含む全機形状供試体を製作し, 角田宇宙センターのラムジェットエンジン試験設備で燃焼試験を行い, 全機形状での作動確認や燃焼特性データ取得も行った. 燃焼器単体試験では, 燃焼器出口断面の燃焼ガス組成計測を含むCFD検証用データも取得しており, 燃焼CFDのより詳細な検証にも着手した.
(2) 超音速燃焼に対する設備依存性を予測するツールの構築
昨年度に引き続き, 風洞試験気流に水蒸気が混入した場合の, スクラムジェットエンジン内の燃焼への影響に関する三次元RANS解析を行った. また, エチレン/空気の燃焼に対し, CHEMKIN-Pro / Reaction Workbenchを用いて作成された複数の簡略化反応機構をCFDに組込み, 二次元超音速燃焼流れに適用し, 詳細反応機構の結果と比較することにより, その予測性を検証した.
(3) 飛行試験機の空力特性評価
FaSTARを用いて, マッハ数2から7までの飛行条件について飛行試験機の空力特性を取得した. 迎角, および, ヨー角はそれぞれ0度から10度の範囲を対象とした. これら空力特性データは, 飛行試験機の空力安定性解析や軌道計算に利用されている. また, 空気取入口で圧縮される空気流について解析を行い, 燃焼器流れ解析に必要な流入気流条件を求めた.
(4) 空力加熱量に対する設備依存性を予測するツールの構築
飛行条件を地上設備で模擬する際に, 設備が生み出す乱れや加熱のための燃焼ガス混入が, 空力加熱量に及ぼす影響を予測するために, 流体CFDと熱伝導の連成解析手法構築を進めている. 今年度は, 熱的非平衡流中の物体内部の温度分布を連成解析により調査した.
成果の公表
-査読付き論文
Takahashi, M., Tomioka, S., Kodera, M., Kobayashi, K., Hasegawa, S., Shimizu, T., Aono, J., Munakata, T., ”Numerical Study on Combustor Flow-Path Design for a Scramjet Flight Experiment,” Transactions of JSASS, Aerospace Technology Japan, 2020 (投稿中).
-査読なし論文
1) Takahashi, M., Tomioka, S., Kodera, M., Kobayashi, K., Hasegawa, S., Shimizu, T., Aono, J., Munakata, T., ”Numerical Study on Combustor Flow-Path Design for a Scramjet Flight Experiment,” Proceedings of 32nd International Symposium on Space Technology and Science and 9th Nano-Satellite Symposium, 2019.
2) 髙橋 政浩, 富岡 定毅, ”超音速燃焼飛行試験に用いる燃焼器流路形状の検討,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2019年.
3) 髙橋 政浩, 小林 完, 富岡 定毅, ”飛行試験用超音速燃焼器の地上燃焼試験結果について”, 令和元年度宇宙輸送シンポジウム論文集(提出予定), 2020年.
4) Kodera, M., and Tomioka, S., ”Investigation of Air Vitiation Effects on Scramjet Engine Performance,” Proceedings of 32nd International Symposium on Space Technology and Science and 9th Nano-Satellite Symposium, 2019.
5) 小林 完, 富岡 定毅, 髙橋 政浩, 小寺 正敏, “エチレン超音速燃焼CFDに向けた反応機構簡略化.” 第63回宇宙科学技術連合講演会論文集, 2019年.
6) 長谷川 進, 谷 香一郎, 富岡 定毅, ”極超音速飛行試験に向けた空気取り入れ口の内部流の数値計算,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2019年.
7) 水野 裕介, 高橋 俊, 山田 剛治, 山下 璃良威, ”極超音速流れにおける固体の熱連成解析,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集, 2019年.
8) 水野 裕介,山下 璃良威 ,高橋 俊,山田 剛治, ”空力加熱率の高精度予測に向けた極超音速流体―熱伝導連成解析,” 第63回宇宙科学技術連合講演会論文集, 2019年.
9) Mizuno, Y., Takahashi, S., Yamada, G., Yamashita, R., ”Investigation of Aerodynamic Heating under Hypersonic Flow using Coupled Flow – Thermal Analysis,” Proceedings of ASIA PACIFIC INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON AEROSPACE TECHNOLOGY, 2019.
-口頭発表
1) Takahashi, M., Tomioka, S., Kodera, M., Kobayashi, K., Hasegawa, S., Shimizu, T., Aono, J., Munakata, T., ”Numerical Study on Combustor Flow-Path Design for a Scramjet Flight Experiment,” 32nd International Symposium on Space Technology and Science and 9th Nano-Satellite Symposium, 2019.
2) 髙橋 政浩, 富岡 定毅, ”超音速燃焼飛行試験に用いる燃焼器流路形状の検討,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2019年.
3) 髙橋 政浩, 小林 完, 富岡 定毅, ”飛行試験用超音速燃焼器の地上燃焼試験結果について”, 令和元年度宇宙輸送シンポジウム, 2020年.
4) Kodera, M., and Tomioka, S., ”Investigation of Air Vitiation Effects on Scramjet Engine Performance,” 32nd International Symposium on Space Technology and Science and 9th Nano-Satellite Symposium, 2019.
5) 小林 完, 富岡 定毅, 髙橋 政浩, 小寺 正敏, “エチレン超音速燃焼CFDに向けた反応機構簡略化.” 第63回宇宙科学技術連合講演会, 2019年.
6) 長谷川 進, 谷 香一郎, 富岡 定毅, ”極超音速飛行試験に向けた空気取り入れ口の内部流の数値計算,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2019年.
7) 水野 裕介, 高橋 俊, 山田 剛治, 山下 璃良威, ”極超音速流れにおける固体の熱連成解析,” 第51回流体力学講演会/第37回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 2019年.
8) 水野 裕介,山下 璃良威 ,高橋 俊,山田 剛治, ”空力加熱率の高精度予測に向けた極超音速流体―熱伝導連成解析,” 第63回宇宙科学技術連合講演会, 2019年.
9) Mizuno, Y., Takahashi, S., Yamada, G., Yamashita, R., ”Investigation of Aerodynamic Heating under Hypersonic Flow using Coupled Flow – Thermal Analysis,” ASIA PACIFIC INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON AEROSPACE TECHNOLOGY, 2019.
JSS2利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 32 – 1920
- 1ケースあたりの経過時間: 400 時間
利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 1.89
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 17,100,809.54 | 2.08 |
SORA-PP | 6,134.46 | 0.04 |
SORA-LM | 11.77 | 0.00 |
SORA-TPP | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 201.86 | 0.17 |
/data | 12,027.24 | 0.21 |
/ltmp | 3,304.04 | 0.28 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
J-SPACE | 7.40 | 0.19 |
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2019年4月~2020年3月)