圧縮性熱乱流境界層の物理とモデリングに関する研究
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2018年4月～2019年3月)
報告書番号: R18JACA31
利用分野: JSS2大学共同利用
- 責任者: 河合宗司, 東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻
- 問い合せ先: 平井遼(hirai@cfd.mech.tohoku.ac.jp)
- メンバ: 河合 宗司, 戸谷 晃輔
事業概要
本研究では, 冷却・加熱などの壁面からの熱流束を伴う圧縮性熱乱流境界層に対してLESによる解析を行い, 熱流束の影響を受けた乱流境界層における普遍的な物理現象の解明を行うことで壁面熱流束の影響を評価することができるLES壁面モデルの構築を目指す.
参照URL
「Kawai Lab. - Aerospace Dept., Tohoku University」参照.
JSS2利用の理由
圧縮性乱流境界層の高忠実なLES計算には非常に高い計算コストがかかり, スーパーコンピュータを用いた大規模並列計算が必要不可欠である.
今年度の成果
本研究では壁面熱流束を伴う乱流境界層に対してLES解析を行い, 乱流境界層における普遍的な物理現象の解明, およびその知見をもとにしたLES壁面モデルの構築を目指している. 今年度は様々な壁面温度条件に設定した熱乱流境界層を計算し, 壁面温度の違いによる乱流統計量と乱流構造の解析を行った. 主流条件はRe = 2,500 , M = 2.28とした (レイノルズ数の代表長さは境界層の運動量厚さ). 空間差分に6次精度コンパクト差分法, 時間積分法に3段3次TVD Runge-Kutta法を用いた. 壁面温度Twは空力加熱を受けた壁面温度 (回復温度) をTrとした時にTw / Tr = 0.5, 0.75, 1.0, 1.5, 2.0 の全5ケースを計算した (Tw / Tr < 1.0のときに冷却条件, Tw / Tr > 1.0 のときに加熱条件, Tw / Tr = 1.0 のときに擬似断熱条件となる) .
各温度条件の乱流統計量のvan Driest変換を施した平均速度分布 (図1) より, 擬似断熱条件 (Tw / Tr = 1.0) においてはDNSの結果と良い一致を示し対数則との傾きの一致も確認された. 一方で加熱壁面の場合は下側に, 冷却壁面の場合は上側にそれぞれ対数則域において対数則からずれることが確認された. また, そのずれ幅は加熱・冷却それぞれの強度と相関があることから, 強い熱流束が存在する境界層内層における乱流統計量の分布にはある普遍的な法則が存在する可能性が示唆される. 平均速度分布のy+=20程度の高さにおけるTw / Tr = 0.5, 2.0の壁面温度条件の主流方向速度変動量の瞬間図(図2) より, 冷却壁面の条件 (Tw / Tr = 0.5) において細い乱流構造が多数存在する. それとは対象的に, 加熱壁面の条件 (Tw / Tr = 2.0) では大きな乱流構造がまばらに存在していることが確認できる. 乱流の生成・維持機構において重要なこの乱流構造の様相が加熱と冷却で全く異なっていることから, 境界層内層における物理現象が壁面熱流束の影響を受けて変化している可能性が考えられる.
図1: 各壁面温度条件によるvan Driest変換を施した平均速度分布.
図2: y+=20の高さ断面における瞬間の変動主流方向速度分布.
成果の公表
-口頭発表
(1) 戸谷晃輔, 久谷雄一, 河合宗司, "物理的な整合性を持つ運動エネルギー保存型スキームの高次精度化と一般座標化," 第50回流体力学講演会/第36回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム, 宮崎市民プラザ, 2018年7月.
(2) K. Totani, Y, Kuya, S. Kawai, "High-order-accurate kinetic energy and entropy preserving schemes on curvilinear meshes," SciTech2019, San Diego, California, AIAA-2019-1403, January 2019.
-ポスター
(1) 平井遼, 河合宗司, "壁面熱流束を有する乱流境界層のLES壁面モデル構築に向けたLES解析," 第2回航空機空力研究ワークショップ, 遠刈田, 宮城, 2019年3月.
JSS2利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 128 - 285
- 1ケースあたりの経過時間: 140 時間
利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.01
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
| 計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
|---|---|---|
| SORA-MA | 85,777.07 | 0.01 |
| SORA-PP | 0.00 | 0.00 |
| SORA-LM | 0.00 | 0.00 |
| SORA-TPP | 0.00 | 0.00 |
| ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
|---|---|---|
| /home | 105.86 | 0.11 |
| /data | 2,012.25 | 0.04 |
| /ltmp | 4,101.56 | 0.35 |
| アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
|---|---|---|
| J-SPACE | 0.00 | 0.00 |
※1 総資源に占める利用割合：3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合：対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2018年4月～2019年3月)