大気環境物質監視シミュレーション
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2017年4月~2018年3月)
報告書番号: R17JR2401
利用分野: 宇宙技術
- 責任者: 中島映至 宇宙科学研究所
- 問い合せ先: 菊池麻紀 kikuchi.maki@jaxa.jp
- メンバ: 鈴木健太郎, 五藤大輔, 菊池麻紀, 藤原智貴, 早崎将光, Tie Dai, Yueming Cheng
事業概要
大気汚染物質の飛来と輸送を精度良く監視・予測するために,数値モデリングと人工衛星観測を組み合わせた大気汚染の監視・予測システムを構築する.この目的のために,領域規模から全球規模までをシームレスに扱える大気数値モデルをJAXAのスパコンJSS2上で稼働させ,東アジア域における大気汚染の飛来・輸送のシミュレーションを実施する.さらに,その結果を人工衛星による大気汚染の観測と比較することで数値モデルを評価検証する.
参照URL
なし
JSS2利用の理由
日本を含む東アジア域での大気汚染の分布状態を精度良く監視・予測するためには,高い空間解像度で広域を対象とした数値シミュレーションを定常的に実施する必要があり,そのためにはJAXAが有するスパコンJSS2の計算機資源を利用することが必須である.
今年度の成果
今年度は,昨年度JSS2に実装した非静力学気象・大気化学モデルNICAM-SPRINTARSを引き続き稼働させ,日本付近を対象とした領域スケールの数値実験を昨年度に引き続いて実施した.さらに,このシミュレーションの結果をひまわり8号から得られるエアロゾルの衛星観測データと詳細に比較することを通じてシミュレーション結果の評価検証を行うとともに,衛星観測とモデリングをさらに積極的に融合するためにエアロゾルのひまわり観測データをNICAM-SPRINTARSモデルに同化する実験を開始した.図1に示したのは前者のモデル評価に関する結果の一例であり,エアロゾル濃度の指標である光学的厚さ(AOT)のモデル結果(縦軸)とひまわり観測データ(横軸)の相関を示している.このような比較を通じて,モデルがひまわりに比べてエアロゾル光学的厚さを過小評価の傾向にあることや,その時空間変動特性の統計値(歪度や尖度)に違いがあることなどがわかった.このような詳細な比較は,高い時空間分解能を持つひまわり8号の衛星観測データによって初めて可能となった解析であり,今後これをさらに発展させていくことで,エアロゾルの輸送過程についてモデルをこれまでになく詳細に評価し,モデルを改良していけることが期待される.また同化実験に関しては,図2に示すように特定の地点で同化無しの結果とのAOTの時系列の比較を行い,同化することでモデルの結果が地上観測の値に近づくことが示されたほか,このような比較を広域で行った場合(図3)にも,同化によって概ね誤差が小さくなることが示された.これらの結果は,JSS2上でエアロゾルモデル予測・同化システムが適切に稼働し,ひまわり衛星観測データとの比較・同化を今後様々な事例で実施していくことが可能となったことを意味している.

図1: NICAM-SPRINTARSモデル(縦軸)とひまわり8号衛星観測(横軸)から得られるエアロゾル光学的厚さ(AOT)の確率密度関数(色)と,それぞれから得られるAOTの出現頻度分布.後者については,AOTの平均値・歪度・尖度も数値で示している.

図2: ひまわり8号のエアロゾル光学的厚さ(AOT)をNICAM-SPRINTARSモデルに同化した実験から得られたAOTの時系列(赤色)を,同化無しの場合の時系列(茶色)との比較で示したもの.黒丸はAERONETによる地上観測の値を示す.
成果の公表
■ 口頭発表
1) 五藤大輔, 菊池麻紀, 鈴木健太郎, 早崎将光, 吉田真由美, 永尾隆, 杉本伸夫, 清水厚, 中島映至 (2017) 2016年5月における静止衛星ひまわりを用いたNICAMのエアロゾル再現性の検証, 日本気象学会2017年度秋季大会, 北海道札幌市, 2017年10月
2) 早崎将光, 鈴木健太郎, 五藤大輔, 菊池麻紀, 吉田真由美, 永尾隆, 杉本伸夫, 清水厚, 中島映至 (2017) ストレッチNICAM-SPRINTARSを用いた地上PM2.5高濃度時の気象要因分析, 日本気象学会2017年度秋季大会, 北海道札幌市, 2017年10月
3) Goto D., Kikuchi M., Suzuki K., Hayasaki M., Yoshida M., Nagao T., Sugimoto N., Shimizu A., Nakajima T. (2017) Model evaluation using a geo-stationary satellite and in-situ measurements around Japan in May 2016, 2017 American Geophysical Union (AGU) Fall Meeting, New Orleans, USA, December 2017
JSS2利用状況
計算情報
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: N/A
- プロセス並列数: 32 – 160
- 1ケースあたりの経過時間: 3.50 時間
利用量
総資源に占める利用割合※1(%): 0.06
内訳
JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
SORA-MA | 254,366.99 | 0.03 |
SORA-PP | 2,020.05 | 0.03 |
SORA-LM | 0.02 | 0.00 |
SORA-TPP | 0.00 | 0.00 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
/home | 1,645.09 | 1.14 |
/data | 26,248.94 | 0.49 |
/ltmp | 12,695.32 | 0.96 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 資源の利用割合※2(%) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.00 | 0.00 |
※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.
※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2017年4月~2018年3月)