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宇宙利用拡大を目指した宇宙環境防護に関する研究

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2017年4月~2018年3月)

報告書番号: R17JG3210

利用分野: 研究開発

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  • 責任者: 山中浩二 研究開発部門第一研究ユニット
  • 問い合せ先: 後藤亜希 goto.aki@jaxa.jp
  • メンバ: 後藤亜希, 島﨑一紀

事業概要

将来のさらなる宇宙利用拡大のため,宇宙機と人を厳しい宇宙環境から防護することを目的としている.特に有人探査ではより安全な長期滞在が求められるため,軽量かつ効果的に被ばく線量を低減できる遮蔽技術が求められる.我々は,材料の観点から,船内もしくは月・火星面上で宇宙飛行士が安全かつ長期に活動できるための遮蔽設計について検討を進めている.

参照URL

なし

JSS2利用の理由

PHITS (粒子・重イオン輸送計算汎用モンテカルロコード) シミュレーションによる材料の遮蔽効果予測のために,JSS2 を利用している.有人宇宙船を模擬した体系など,大きく複雑な体系での放射線輸送モンテカルロシミュレーションには,膨大な時間を要する.JSS2 の利用により,そのような体系でのシミュレーションを高速かつ統計精度よく実施することが可能となる.

今年度の成果

本年度は,将来有人探査ミッションが行われる地磁気圏外 (Beyond Low Earth Orbit: BLEO) において防護対象となる銀河宇宙線 (Galactic Cosmic Ray: GCR) に注目し,それに対する最適な宇宙船遮蔽設計に関する検討を,PHITS (Particle and Heavy Ion Transport Code System) コードを用いた計算機シミュレーションにより実施した.

GCR は太陽系外から定常的に飛来する高エネルギー粒子であり,陽子 (~85%),He 原子核 (~14%),電子 (~1%),Li から U までの重核からなるとされている.GCR による人体の被ばく線量を低減する手段の一つとして,遮蔽材料の設置が挙げられる.輸送重量の観点から,有人ミッション用途の遮蔽材料として,単位あたりの遮蔽効果が高い材料が望ましい.原子番号が低い元素ほど,GCR に対する単位質量あたりの遮蔽効果が高いことが知られており,水素 (1H)が最も効果が高い.今回,水素を多く含む既存遮蔽材料であるポリエチレン (PE,(CH2)n,水素重量濃度: 14 wt%) の最適遮蔽厚さに関する検討を行った.PE の最適設置厚さは,線量計測位置 (人滞在位置) からの宇宙船 (主に Al 合金からなる) の遮蔽厚により異なるものと考えられる.宇宙船の遮蔽厚に応じた PE の最適厚さについて調査するため,Al と PE の 2 層壁からなる単純な球殻体系による線量計算を実施した.

計算体系を図 1 に示す.内径 400 cm の Al/PE 2 層球殻の中心に,直径 30 cm の水球 (人体を模倣した仮想線量計) を設置した.Al/PE 球殻は,外側が Al となる設置順とし,Al の厚さは 0-50 g/cm2,PE の厚さは 0-60 g/cm2 とした.球殻内部 (水領域を除く) は,真空とした.計算に使用した GCR スペクトルを,図 2 に示す.GCR 線源として,CREME96 モデルを使用した.太陽活動は極小期 (フレアなし条件) とし,宇宙機位置は地球近傍惑星間 (捕捉粒子なし,地磁気なし) とした.GCR 線源 (陽子-Ni 核) を等方的に Al/PE 2 層体系 (図 1) に照射した場合の水球の線量当量を,モンテカルロ計算により算出した.

計算結果を図 3 に示す.PE の設置により,水球の線量当量は (遮蔽材なし条件と比較し) 最大 40% 低減した.Al の遮蔽厚に関わらず,30 g/cm2 程度の PE 付加により線量当量は 34-40% 程度低減され,それ以上の厚さ PE を付加しても線量に与える影響が小さい (遮蔽厚-線量当量曲線がほぼプラトーである) ことがわかった.この結果より,BLEO ミッションにおける 30 g/cm2 以上の厚さの遮蔽材付加は GCR 遮蔽の観点で無駄であり,30 g/cm2 程度遮蔽材を付加することで被ばく線量を最小化 (現実的な厚さのパッシブな遮蔽により達成可能な最小値)できると言える.

今後の課題は,本結果を実ミッションに適用可能な遮蔽指針に反映することである.太陽活動時期・ミッション内容 (場所・期間) によっては,必ずしも遮蔽材の付加が必要ではないものと考えられる.今後,太陽活動やミッション期間・宇宙船の形状に応じた遮蔽設計最適化指針に資する,データ獲得を実施する計画である.

Annual Reoprt Figures for 2017

図1: GCR 照射における水球の線量当量計算に使用した体系

 

Annual Reoprt Figures for 2017

図2: GCR スペクトル (CREME96 モデル; 太陽活動極小期 (フレアなし),地球近傍惑星間条件,H-Ni 核)

 

Annual Reoprt Figures for 2017

図3: 球殻の遮蔽厚に対する水球の線量当量計算結果(GCR 照射時)

 

成果の公表

■ 口頭発表

1)Aki Goto, Kazunori Shimazaki, Yugo Kimoto, Haruhisa Matsumoto, and Aiko Nagamatsu, PHITS Simulations for Development of Space Radiation Shielding Materials, 31st ISTS, 2017.

2)後藤亜希, 島﨑一紀, 銀河宇宙線に対する遮蔽技術の確立に向けた検討, 第14回宇宙環境シンポジウム, 2017.

3)Aki Goto, Kazunori Shimazaki, Exposure Dose Calculation inside JEM Using PHITS and 3D ISS Geometry, 42nd COSPAR Scientific Assembly, 2018. (発表予定)

JSS2利用状況

計算情報

  • プロセス並列手法: MPI
  • スレッド並列手法: OpenMP
  • プロセス並列数: 5 – 24
  • 1ケースあたりの経過時間: 30,000.00 秒

利用量

 

総資源に占める利用割合※1(%): 0.04

 

内訳

JSS2のシステム構成や主要な仕様は、JSS2のシステム構成をご覧下さい。

計算資源
計算システム名 コア時間(コア・h) 資源の利用割合※2(%)
SORA-MA 0.00 0.00
SORA-PP 58,110.50 0.73
SORA-LM 0.00 0.00
SORA-TPP 0.00 0.00

 

ファイルシステム資源
ファイルシステム名 ストレージ割当量(GiB) 資源の利用割合※2(%)
/home 014.31 0.01
/data 4,978.18 0.09
/ltmp 2,929.69 0.22

 

アーカイバ資源
アーカイバシステム名 利用量(TiB) 資源の利用割合※2(%)
J-SPACE 0.00 0.00

※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2017年4月~2018年3月)