自由な発想に基づいた学術研究
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)
報告書番号: R16J0116
- 責任者: 藤本 正樹(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)
- 問い合わせ先: 藤本 正樹(fujimoto.masaki@jaxa.jp)
- メンバ: 藤本正樹, 清水健矢
- 利用分類: 宇宙分野(宇宙科学, 宇宙理学)
概要
磁場エネルギーが解放される爆発現象である磁気リコネクションは, 互いに強く押し付けられた反対向きの磁力線が接近すれば発生すると考えられてきた. では, 磁気リコネクションのトリガーのためには, どれだけ接近しなければならないのか. この研究では, これまでの定説よりも30倍以上に距離が離れている場合でも磁気リコネクションの発生が可能であることを示し, その発生がより容易であることを示した.
目的
宇宙科学研究所で実施する太陽-地球惑星系科学分野の科学衛星ミッションの科学成果を拡大するために数値シミュレーションによって理論的に支援する.
目標
磁気リコネクションは宇宙プラズマ中で最も重要な物理過程であり, そこでは磁場エネルギーが爆発的に開放される. これまで未解明であった磁気リコネクションのトリガー機構を調査する.
参照URL
なし
スパコンの用途
宇宙プラズマ中の運動論効果を扱うため, 粒子モデルによる大規模計算を実施する.
スパコンの必要性
粒子モデルによる大規模計算である.
今年度の成果
磁気リコネクションは, 磁場エネルギーを爆発的に開放する物理過程であり, 多くの宇宙空間における活動的現象の原因であると考えられる重要な現象である. 磁気リコネクションは, ある電流層を挟んで反対向きの磁力線が対面し, その電流層が薄くなった時に磁力線が電流層を貫くような形状へと繋ぎ換わる現象であり, そのトリガーは電流層がイオンのラーマ―半径サイズ程度まで薄くなると起こるとされてきた. しかし, イオンラーマ―半径という空間スケールはかなり小さく, そこまで電流層が薄くならなければいけないのかという問題と, たとえイオンスケールの電流層であってもリコネクションをトリガーするには分厚いのではないのかという問題があり, いずれもリコネクションのトリガー問題は全くの未解明であったことを示している. この研究では, 電流層内イオンの温度非等方性(磁力線平行方向と垂直方向とでは温度が異なること. 粒子同士が直接衝突しない宇宙プラズマ中では, これは可能である)に注目し, この問題にチャレンジした. 結果は, (I)垂直温度が平行温度の1.5倍を越えれば, その厚さがイオン長の30倍を越す電流層においても磁気リコネクションはトリガーされる, (II)ただし, 温度異方性がないと厚さがイオン長であってもトリガーはされない, (III)これは, 電流層の両側の磁場強度が1.5倍まで圧縮されれば, その厚さが30イオン長もある分厚い電流層であってもリコネクションが引き起こされることを示す(逆に, 圧縮が1.5倍に達しないと, イオン長程度に薄い電流層でもトリガーは起きない). この温度異方性に関連した臨界的な振舞は, 従来の常識を大きく変え新しい研究の方向性を指し示す結果であり, リコネクション・トリガー問題の解決へと大きく貢献する結果である.
成果の公表
査読付論文
1) Shimizu, K.; Fujimoto, M.; Shinohara, I., On temporal variation of reconnection rate and X line electric field structure, Journal of Geophysical Research: Space Physics, Volume 121, Issue 10, pp. 9956-9971, 2016.
2) 清水健矢, 東京大学博士論文 2017
口頭発表
1) Kenya Shimizu Masaki Fujimoto Iku Shinohara, Triggering of explosive reconnection in a thick current sheet by temperature anisotropy boosted tearing mode, AGU 2016年12月
2) Iku Shinohara Kenya Shimizu Masaki Fujimoto, Triggering of explosive reconnection in a thick current sheet via current sheet compression: Less current sheet thinning, more temperature anisotropy, AGU 2016年12月
計算情報
- 並列化手法: ハイブリッド並列
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 144
- プロセスあたりのスレッド数: 32
- 使用ノード数: 20
- 1ケースあたりの経過時間(時間): 12
- 実行ケース数: 20
利用量
総仮想利用経費(円): 16,302,462
内訳
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
SORA-MA | 9,951,601.62 | 16,252,623 |
SORA-PP | 0.97 | 8 |
SORA-LM | 0.00 | 0 |
SORA-TPP | 118.35 | 1,745 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
/home | 28.10 | 265 |
/data | 3,279.05 | 30,931 |
/ltmp | 1,790.37 | 16,888 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.00 | 0 |
注記: 仮想利用経費=2016年度設備貸付費用の単価を用いて算出した場合の経費
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)