大気環境物質監視シミュレーション
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)
報告書番号: R16J0097
- 責任者: 中島 映至(宇宙科学研究所(本務),第一宇宙技術部門地球観測研究センター)
- 問い合わせ先: 菊池 麻紀(kikuchi.maki@jaxa.jp)
- メンバ: 鈴木健太郎,五藤大輔,菊池麻紀,藤原智貴,早崎将光
- 利用分類: 基礎分野(モデリング)
概要
大気汚染物質の飛来と輸送を精度良く監視・予測するために,数値モデリングと人工衛星観測を組み合わせた大気汚染の監視・予測システムを構築する.この目的のために,領域規模から全球規模までをシームレスに扱える大気数値モデルをJAXAのスパコンJSS2上で稼働させ,東アジア域における大気汚染の飛来・輸送のシミュレーションを実施する.さらに,その結果を人工衛星による大気汚染の観測と比較することで数値モデルを評価検証する.
目的
近年社会問題となっている大気汚染物質の飛来と輸送を精度よく監視・予測するために,大気環境の数値モデリングと衛星観測を準リアルタイムで比較できるシステムを構築する.
目標
領域規模から全球規模までをシームレスに扱える次世代型数値大気モデルNICAMに大気汚染の輸送計算を組み込んだNICAM-SPRINTARSをJSS2上で稼働させ,日本付近における大気汚染の分布状態をシミュレートするとともに,その結果を衛星観測と比較して検証する.それによって大気環境監視・予測に資する数値モデリングと衛星観測の連携を促進する.
参照URL
なし
スパコンの用途
東アジア域における大気汚染の飛来・輸送のシミュレーションを実施するために,大気汚染物質の輸送を予測計算できる高解像度大気数値モデルNICAM-SPRINTARSをJAXAのスパコンJSS2上で稼働させる.
スパコンの必要性
日本を含む東アジア域での大気汚染の分布状態を精度良く監視・予測するためには,高い空間解像度で広域を対象とした数値シミュレーションを定常的に実施する必要があり,そのためにはJAXAが有するスパコンJSS2の計算機資源を利用することが必須である.
今年度の成果
今年度は,非静力学気象・大気化学モデルであるNICAM-SPRINTARSをJAXAのスーパーコンピュータJSS2上で稼働させることに成功した.NICAM-SPRINTARSは領域スケールから全球スケールまでをシームレスに扱うことのできる数値モデリングシステムであり,利用可能な計算資源に応じて対象領域の大きさや空間解像度を柔軟に設定することが可能となっている.今年度はこのモデリングシステムをJSS2上で稼働させて,日本付近を対象とした領域スケールの数値実験を実施した.これによって大気微粒子(エアロゾル)の飛来・輸送の様子を再現するとともに,ひまわり8号から得られるエアロゾルの衛星観測データと比較することで,シミュレーション結果の評価検証を行った.図1に示したのはそのようなシミュレーション結果およびその衛星観測との比較の例であり,2016年5月18日の事例について,エアロゾルの濃度の指標である光学的厚さの分布を図示したものである.このシミュレーション結果(図1右列)によると,シベリアの森林火災によって発生したエアロゾルが風に乗って運ばれ,日本海を経て北日本へ到達している様子が再現されている.この特徴は同日同時刻のひまわり8号による観測結果(図1左列)とも良く一致し,JSS2上で稼働を始めたNICAM-SPRINTARSモデルによるシミュレーションが良好な再現性を持つことが示された.さらに図2に示したのは,エアロゾル粒子のサイズの指標であるオングストローム指数の比較であり,値が大きいほどサイズが小さい粒子であることを意味している.シミュレーション結果(図2右列)は北日本へ飛来したエアロゾル粒子はサイズが小さい粒子であることを意味しており,これは衛星観測データが示す特徴(図2左列)と一致する.すなわち,エアロゾル粒子の大きさについても数値シミュレーションは良好な再現性を示し,北日本へ飛来したエアロゾルがシベリアの森林火災で発生したものであることを裏付けている.これらの結果は,シームレスな気象・大気汚染予測モデルNICAM-SPRINTARSがJSS2上で適切に稼働を始めたことを意味しており,来年度以降さらに様々な事例でのシミュレーションを実施していくことが可能となった.

Fig.1: ひまわり8号の衛星観測(左)とNICAM-SPRINTARSによるシミュレーション(右)から得られたエアロゾル光学的厚さの空間分布の比較.上から2016年5月18日の00UTC, 03UTC, 06UTCの結果をそれぞれ示す.

Fig.2:ひまわり8号の衛星観測(左)とNICAM-SPRINTARSによるシミュレーション(右)から得られたオングストローム指数の空間分布の比較.上から2016年5月18日の00UTC, 03UTC, 06UTCの結果をそれぞれ示す.
成果の公表
なし
計算情報
- 並列化手法: プロセス並列
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 160
- プロセスあたりのスレッド数: 1
- 使用ノード数: 5
- 1ケースあたりの経過時間(時間): 8
- 実行ケース数: 10
利用量
総仮想利用経費(円): 213,757
内訳
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
SORA-MA | 81,398.09 | 133,445 |
SORA-PP | 0.00 | 0 |
SORA-LM | 0.00 | 0 |
SORA-TPP | 0.00 | 0 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
/home | 510.22 | 2,112 |
/data | 10,099.42 | 41,812 |
/ltmp | 8,789.07 | 36,387 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.00 | 0 |
注記: 仮想利用経費=2016年度設備貸付費用の単価を用いて算出した場合の経費
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)