将来輸送技術の研究(エンジン流路形状の研究)
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)
報告書番号: R16J0075
- 責任者: 沖田 耕一(研究開発部門 第四研究ユニット)
- 問い合わせ先: 佐藤 茂(ssato@kakuda.jaxa.jp)
- メンバ: 佐藤茂,宗像利彦,福井正明,高橋正晴
- 利用分類: 宇宙分野(宇宙輸送)
概要
将来の極超音速推進機関としてスクラムジェットエンジン*1)が米国他各国で研究が進められ,基礎研究から飛行試験まで広範に行われている.我が国でも旧航空宇宙技術研究所*2)時代から研究が進められ,平成5年からはラムジェットエンジン試験設備にて飛行条件マッハ4,6,8等の研究を重ねて来,多くの知見を得ている.その試験結果から,エンジン性能発揮への障害となっている要因を見出し,佐藤らはCFD援用にてその解決策を検討し設計法に繋げんとしている.
*1)空気吸い込み式超音速燃焼エンジン,(英)Supersonic Combustion Ramjet Engine
*2)現宇宙航空研究開発機構の母胎の一つ
目的
再使用型宇宙推進機関である複合推進エンジンの主要モードであるスクラムジェットエンジンに就いて,その内部形状がエンジン性能に及ぼす影響をCFD援用にて空気力学的に解明し,複合エンジンの設計に資すること.
角田宇宙センターに蓄積されている豊富なエンジン試験結果からエンジン性能向上に繋がる因子を抽出するためエンジン試験結果と対比するCFDを行い,またエンジン性能向上に繋がるものとして考案されたエンジン形態をCFDで試すこと.
目標
角田宇宙センターでは複合推進エンジンの主要モードとしてスクラムジェットエンジンの研究を進めており,ラムジェットエンジン試験設備(RJTF)を用いてエンジン性能試験を多数重ねて来ている.その過程では,特に飛行マッハ6条件下ではエンジンの内部形状の一部の違いがエンジン性能に大きな影響を与えることが分かっている.
エンジンの主要素であるインレット,分離部,ストラット等の内部形状の違いがエンジン性能にどの様に影響するのか,当角田宇宙センターに蓄積されている豊富な実験データに基づき各形態のシミュレーションをCFDにて遂行すると共に,また試験未実施の形態についてもシミュレーションを行っている.
エンジン内部形状の空気力学的効果をCFD援用により追求し,実験データとの対比を重ね,空力的効果を体系化し,複合エンジンの設計の判断材料を構築する.
参照URL
なし
スパコンの用途
スクラムジェットエンジン試験に対応したCFDを行い,CFDの検証を踏まえた上で,エンジン試験未実施のエンジン形状や飛行条件等に適用する.そうすることでスパコン上にてエンジンの仮想実験を行うことが出来,能率的にエンジン性能向上策を獲得し得る.又このことはスパコン性能において優位性を持つ我が国として他国よりも一歩先駆けた成果を獲得できる可能性を秘めている.
スパコンの必要性
スクラムジェットエンジンは未だ研究開発途上にあり,エンジンの性能を左右する変数(パラメータ)が多岐に亘る.一方で,エンジン試験設備によるエンジン試験や要素試験設備による要素実験も進められているが,作動マッハ数域一つを取り上げても,実験で全域を調べ切れるものではなく,当該エンジン技術の確立には膨大な時間と労力を費やすことになる.従って,スーパーコンピュータを活用し,実験結果を踏まえた上で,実験では再現困難な条件等を試し,エンジン作動下の熱流体的諸現象を把握し,エンジン性能向上に有利な諸現象を抽出し,それを概念化する必要が有る.スパコンの活用によりスクラムジェットエンジンの技術確立が能率的に推進される.
今年度の成果
角田宇宙センターに設置されているラムジェット試験設備(RJTF)にてエンジン試験実施済み形態と対比すべく,改良型のエンジン形態の仮想実験を進めている.この形態は,スクラムジェットエンジン流路の中央に設置される支柱(ストラット)の後縁を絞り込み且つ切り落としたボートテイル形のもので,エンジン試験実施済みのエンジンと基本寸法は同一ながらエンジン推力性能の改善を図ったものである.図1に示す.この両者に就いてエンジン内部諸量の違いを比較した.比較は3次元燃焼条件にて行い,エンジン内の衝撃波等の影響を調べることで行った.エンジン内での水素0.05%の等値面を把握し,同等値面における温度分布を可視化した.図2に示す.又,両形態の流路における質量流率(ρu)分布を調べエンジン燃焼下のρu分布を重ねて示した.両形態を比較すると,12本有る燃料噴射孔の周囲が赤色となっているのは両形態とも共通である.違いとして目立つのはノズル部天板寄りの箇所の赤色分布である.この箇所はカウル前縁衝撃波が天板に入射し反射する位置であり,反応が促進される場所でもある.そこでは5/5高さストラット形態の方がより赤色域が広い.その分発熱が大きく,燃焼を更に増進する元となることが想定できる.
実際のエンジン試験では,天板寄りの当該箇所での発熱の大きさが確認されており,この発熱により天板面の圧力上昇が促進され,エンジン不始動(天板面全域剥離)が早めに引き起こされることが観測されている.
不始動を遅らせれば,高当量比までの燃料投入が可能となり,エンジンの性能を伸長させることに通ずるので,この天板寄りの領域に発熱が集中することを回避しつつエンジン断面中心域で燃焼が活発化する形態と設計法が望まれる.例えば,当エンジン形態の様に側板からの燃料噴射では,カウル寄りの噴射孔から選択的に噴射すると言った噴射孔制御に有効性が見出せる.
現時点では圧力分布等に未だCFD側の過小評価が有り,乱流燃焼モデルを中心にその原因を調べている.
成果の公表
査読なし論文
1) 佐藤 茂,福井正明,渡邉孝宏,宗像利彦,スクラムジェットエンジンの性能向上に関する一考察,第48回流体力学講演会/第34回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム(平成28年7月金沢)論文集,宇宙航空研究開発機構特別資料,JAXA-SP-16-007,2016年12月
口頭発表
1)佐藤 茂,福井正明,渡邉孝宏,宗像利彦,スクラムジェットエンジンの性能向上に関する一考察,第48回流体力学講演会/第34回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム(平成28年7月金沢)
2)佐藤 茂,福井正明,宗像利彦,渡邉孝宏,髙橋正晴,スクラムジェットエンジン性能向上に関する試み―燃料噴射方式の多様化に向けて,平成28年度衝撃波シンポジウム(平成29年3月横須賀)
計算情報
- 並列化手法: プロセス並列
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: 非該当
- プロセス並列数: 4-8
- プロセスあたりのスレッド数: 1
- 使用ノード数: 1
- 1ケースあたりの経過時間(時間): 150
- 実行ケース数: 10
利用量
総仮想利用経費(円): 411,753
内訳
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
SORA-MA | 0.03 | 0 |
SORA-PP | 45,196.63 | 385,889 |
SORA-LM | 0.00 | 0 |
SORA-TPP | 0.00 | 0 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
/home | 39.07 | 368 |
/data | 397.05 | 3,745 |
/ltmp | 2,115.89 | 19,959 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.58 | 1,791 |
注記: 仮想利用経費=2016年度設備貸付費用の単価を用いて算出した場合の経費
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)