回転流体機器周りの高精度流体解析技術に関する研究
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)
報告書番号: R16J0058
- 責任者: 青野 光(東京理科大学工学部)
- 問い合わせ先: 青野 光(aono@rs.tus.ac.jp)
- メンバ: 青野光
- 利用分類: 宇宙分野(その他)
概要
本事業はターボポンプ内の回転流体要素の機器設計に活用できる流体解析技術の開発に関するものである.本年度は,ラージエディシミュレーション(LES)が実行可能な低レイノルズ数条件かつ検証データが豊富な小型ファン周りの流れを対象とし,LES解析とその検証を行った.計算結果より,ファン周りの詳細な非定常流体現象の理解と定量的な空力音の予測精度を示すことができた.今後,ポンプやタービンを用いた検証を進めていく予定である.
目的
本事業の目的は,LE-7Aエンジンや再使用観測ロケット用のエンジンなどに代表されるロケットエンジン用のターボポンプ内の回転流体要素機器(インデューサ,インペラ,タービンなど)の開発設計に活用できる高精度数値流体解析技術を開発することである.将来的には本研究で開発した解析技術をJAXAで利用されているもしくは開発した既存のターボポンプ設計解析ツールの新たな要素技術として組み込むことも狙っており,もし実現できれば既存のツールの予測性能の向上も期待でき今後のターボポンプ設計開発に貢献することを最終の目的としている.
目標
ターボポンプ内の回転流体要素機器(インデューサ,インペラ,タービンなど)の高精度流体解析技術の実現には,質の良い複雑形状周りの計算格子生成法,高精度・解像度の計算手法,保存性に優れた移動境界法の構築がクリアするべき課題である.本事業では,近年HPCIで利用が開始されてきている高精度・解像度の計算手法の一つである6次精度コンパクト差分法と複雑形状まわり構造格子法として重合格子法を適用した流体解析プログラムを開発した.開発した解析技術を実験データが存在する小型ファン周りの流れに適用し,解析技術の妥当性の確認を行った.
参照URL
なし
スパコンの用途
小型ファンまわりの三次元乱流場解析の実施とプログラムのデバック作業にスパコンを利用した.また,本事業で開発している流体解析プログラムは,JSS2にチューニング済みでありスパコンの性能を十分に利用できている.
スパコンの必要性
対象としたファン周りの流れのレイノルズ数が105のオーダの回転するファン周りの定量的な流れ場特性を解析するためには最低でも数千万点以上の計算格子点数,更に流れ場特性評価を行うために数十回転以上の長時間計算が必要であり,この規模(格子点数,計算時間)の計算はスパコンを利用することで初めて可能になる.また,今回の解析では対象としていないが回転するファン周りの空力音響場を直接計算するためには最低でも数億点以上の計算格子を利用した長時間での計算が必要となる.さらに,数値シミュレーションを用いることで,実験で評価が困難なファンのインペラやボスに働く純粋な流体力の特性を得ることができる利点もある.
今年度の成果
計算は対象とする小型ファンの最大流量時の作動条件(翼端速度ベースのレイノルズ数が105)で実施し,ファンが25回転後の軸方向瞬間速度分布をFig. 1に示す.ファン周りの初期流れ場は無風としており,ファンの回転によりファン前方の流れが吸い込まれ,下流側に非定常な流れを生じている.Fig. 2はFig. 1と同じ瞬間のファン周りの近傍の流れを渦度分布で可視化したものである.インペラ周りの根元付近の流れは前縁から剥離し下流側に,翼端付近の流れは前縁から剥離し上流側に,それぞれ細かい渦構造が剥離せん断層から放出していることが分かる.また,ファン前方1メートルの位置の音圧レベルを実験データと比較したところ,第一次ブレード通過周波数は良好な一致を得た.他方,乱流変動が起因するブロードバンドな周波数での音圧レベルと第二次以降のブレード通過周波数での結果での差異がみられた.これらはファンのケーシングの有無と格子解像度によるものだと考えられる.
成果の公表
口頭発表(発表予定1件):
1) Aono, Takahashi, Mamori, Fukushima, Fujii, Yamamoto, Murakami, A Numerical Study on Flow Features around Small Axial Fan using High-Resolution Computational Scheme, Inter-Noise 2017,submitted for presentation. (2017) [発表予定]
計算情報
- 並列化手法: ハイブリッド並列
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP,自動並列
- プロセス並列数: 32
- プロセスあたりのスレッド数: 2
- 使用ノード数: 50
- 1ケースあたりの経過時間(時間): 1000
- 実行ケース数: 1
利用量
総仮想利用経費(円): 459,960
内訳
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
SORA-MA | 272,388.28 | 446,005 |
SORA-PP | 0.00 | 0 |
SORA-LM | 0.00 | 0 |
SORA-TPP | 0.00 | 0 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
/home | 19.07 | 105 |
/data | 1,953.13 | 10,798 |
/ltmp | 390.63 | 2,159 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.49 | 891 |
注記: 仮想利用経費=2016年度設備貸付費用の単価を用いて算出した場合の経費
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)