観測データから「見えない渦」を復元~乱流ダイナミクスに潜む因果構造に関する新知見~
東京理科大学 理学部第一部 応用数学科の犬伏 正信准教授と英ケンブリッジ大学 応用数学理論物理学科(Department of Applied Mathematics and Theoretical Physics)のColm-Cille Patrick Caulfield教授の研究グループは、応用数学の一手法(データ同化)と数学理論(力学系理論)を応用し、2次元Navier–Stokes方程式における同期現象の数理的性質を明らかにしました。数値的検証にはJSS3 (JAXA Supercomputer System Generation 3) による大規模数値計算を用いました。
Navier–Stokes方程式は、空気や水などの流体の運動を記述する方程式であり、車両や航空機の設計、気象予報など、広範な社会・産業応用の理論的基盤として重要です。一方で、その数学的性質や物理学的性質には未解明な点も多く残されており、現在も活発な研究が行われています。特に、近年はデータ同化を用いた研究に注目が集まっています。データ同化は、数値解析と統計科学の融合分野であり、観測データを有効活用することで、数値シミュレーションによる予測の精度向上を目指す応用数学的手法です。Navier–Stokes方程式の数理的研究においては、大きな流れの構造(「大きな渦」)の観測データを用いて、小さな流れの構造(「小さな渦」)を復元することを目的として使用されています。
例えば、海流の予測を行う際に、人工衛星からのデータが利用できる場合を考えます。人工衛星の観測には解像度の限界があるため、大きな渦は解像できても、小さな渦を解像することはできません。流体の運動は、多くの場合は乱流なので、小さな渦に関して正確なデータがない場合、数値シミュレーションを行ってもすぐに予測が外れてしまいます(いわゆるバタフライ・エフェクト)。そこで、大きな渦の観測データから小さな渦のデータを正確に復元する必要があり、それを可能にする応用数学的手法がデータ同化です。
実際、3次元Navier–Stokes方程式に関して、十分な解像度があれば、大きな渦の観測データから小さな渦のデータが復元できることが、近年明らかになっています。この性質は、小さな渦の運動が大きな渦の運動に同期していく過程として捉えることができ、同期ダイナミクスに関する数学理論(力学系理論)を用いて研究されています。
本研究では、「2次元」Navier–Stokes方程式に着目しました。通常、空気や水の流れは3次元的に運動しますが、例えば海洋流れでは、深さ方向のスケールが水平方向に比べて非常に小さく、これはA4用紙の厚さと長さの比に例えられます。このような2次元的な乱流を理解するために、2次元Navier–Stokes方程式を研究することが重要です。
Navier–Stokes方程式の性質は、空間次元(2次元/3次元)に強く依存することが知られており、その違いを明らかにすることは重要な課題です。本研究では、データ同化と力学系理論を駆使して2次元Navier–Stokes方程式を解析し、同期性質においても顕著な空間次元依存性が存在することを明らかにしました。特に、3次元Navier–Stokes方程式では、同期を達成するために「最小渦」まで解像する観測データが必要であるのに対し、本研究で扱った2次元Navier–Stokes方程式では、「最大渦(外力スケールの渦)」の観測データのみで同期可能であることが示されました。
本研究成果は、2026年1月22日に国際学術誌「Journal of Fluid Mechanics」(ケンブリッジ大学出版)にオンライン掲載されました。
https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-fluid-mechanics/article/synchronisation-in-twodimensional-dampeddriven-navierstokes-turbulence-insights-from-data-assimilation-and-lyapunov-analysis/D8C0059D2CFD7477685D62DFB62C77AB
