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低レイノルズ数領域でプロペラ後流の影響を受ける物体の数値解析

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)

報告書番号: R23JACA43

利用分野: JSS大学共同利用

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  • 責任者: 北村圭一, 横浜国立大学
  • 問い合せ先: 北村圭一(kitamura@ynu.ac.jp)
  • メンバ: 古澤 善克, 北村 圭一, 鈴木 恵太, 坂爪 竣哉

事業概要

火星探査機の新しい形態として, 日本ではJAXAを中心に火星飛行機の研究開発が進んでいる. 火星大気は密度が小さく, 火星飛行機は低レイノルズ数領域を飛行することになるため, 地球上を飛行する飛行機とは機体周囲の流れ場が大きく異なる. さらに, 火星飛行機はプロペラ推進であるが, プロペラを有する航空機ではプロペラ後流が固定翼や胴体周りの流れと干渉することで, 飛行性能に影響を与えることが知られている. この干渉は, 高レイノルズ数領域においても発生するため, eVTOLのような地球飛行機においても重要な空力現象である. 本研究では数値計算を用いて, 低レイノルズ数領域から高レイノルズ数領域の幅広い条件においてプロペラ後流が固定翼や胴体周りの流れ場に非定常的に与える影響を明らかにすることを目的とする.

参照URL

なし

JAXAスーパーコンピュータを使用する理由と利点

JAXAで開発された流体解析ソルバrFlow3D, FaSTARおよびFaSTAR-Moveを用いた大規模な3次元数値計算を行うため, JSS3を使用した. これにより, 高速に複数の計算を行うことができる.

今年度の成果

本事業では, 東北大学で行われた風洞実験に基づいた火星飛行機のサブスケール模型(非圧縮流れ)と実機スケールの模型(プロペラ付近は圧縮性流れ)周りの流れ場を比較することで, 実際の火星での飛行時に生じるプロペラ周りの圧縮性の影響がその後流中の固定翼の空力特性に与える影響を非定常数値計算により調査した. どちらのスケールでもプロペラ進行率はJ = 0.8, レイノルズ数はRe ~ 30,000 (固定翼のコード長基準)で一定とした. プロペラ回転数は4500rpmであり, 迎角は4°とした. この時, 風洞スケールではプロペラ翼端マッハ数はMtip=0.10,実機スケールではMtip=0.52となる.

図1はプロペラ後流の瞬時の圧力係数分布および主流方向速度分布である. サブスケールではプロペラから圧力波が生じていることが圧力係数分布より確認でき, また主流方向速度の乱れが大きくなっていることが速度分布からわかる. これは実機スケールでは圧縮性の影響によりブレード上の剥離剪断層が安定化していることに起因していると考えられる. 図2はプロペラ後流中に置かれた固定翼に働く揚力係数のプロペラ1周中の時間履歴である. サブスケールではプロペラ後流の乱れが大きくなることで, 固定翼の揚力係数にも高周波の振動が生じていることがわかる.

本事業ではまた, 高レイノルズ数領域であるeVTOLの水平飛行時を模擬した非定常計算を行った. 胴体・固定翼・プロペラ周りの流れ場を解くことで, それらの間で発生する空力干渉を調査した. 一様流速はM = 0.137, レイノルズ数はRe = 3,100,000である. プロペラの回転数はn = 4161.5 rpmであり, 取り付け角は55.7°とした.

図4はプロペラによって時々刻々と変化する機体表面圧力分布を示している. プロペラの回転により発生した圧力波が, 固定翼のみならず胴体の表面圧力にも影響することが確認できる. この計算により, 胴体を含む機体全体に対するプロペラの空力干渉のメカニズム及び, その影響の大きさを定量的に明らかにした.

また, 本事業では低レイノルズ数領域における同軸反転ロータのロータ間距離による振動の調査を行った. 計算においてはRe=11000とし, ロータ間距離をロータ直径の10%,20%,30%としたケースについて実施した. 結果として, 上側のロータでは下側のロータで形成された圧力場の干渉による影響, 下側のロータでは上側のロータから発生した後流の影響により振動が確認された. また, この振動の詳細はロータ間距離に応じて変化することを明らかにした.

Annual Reoprt Figures for 2023

図1: ブレードの63%スパン位置での瞬時の断面圧力係数および主流方向速度分布

 

Annual Reoprt Figures for 2023

図2: プロペラ後流中に置かれた固定翼に働く揚力係数のプロペラ2周中の時間履歴

 

図3(ビデオ): 胴体・固定翼の表面圧力係数分布

成果の公表

-査読付き論文

Furusawa, Y., Kitamura, K., Ikami, T., Nagai, H., and Oyama, A., “Numerical Study on Aerodynamic Characteristics of Wing within Propeller Slipstream at Low-Reynolds-Number,” Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space, Vol. 67, No. 1, 2024, pp. 12-22.

Furusawa, Y., Kitamura, K., Ikami, T., and Nagai, H., “Numerical Study on Unsteady Flow Field Structure over Wing within Propeller Slipstream at Low-Reynolds-Number,” Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Aerospace Technology Japan. (accepted)

-口頭発表

古澤善克, 北村圭一「低レイノルズ数(4,900 ≤ Re ≤ 50,000)の翼型周り流れにおける乱流遷移モデルの性能比較」, 第54期日本航空宇宙学会年会講演会, 2023.

Furusawa, Y., Kitamura, K., Ikami, T., Okawa, M., and Nagai, H., “Propeller Scale Effect on Fixed Wing within Propeller Slipstream at Low Reynolds Number,” 34th International Symposium on Space Technology and Science, 2023.

Wing Aerodynamic Interaction for Mars Airplane,” 20th International Conference on Flow Dynamics, 2023.

鈴木恵太, 北村圭一「eVTOL のプロペラ間距離が胴体・固定翼空力特性に及ぼす影響の数値解析」, 第61回飛行機シンポジウム, 2023.

坂爪竣哉, 北村圭一, 西村練, 伊神翼, 永井大樹「同軸反転ロータの低Re数空力振動の数値解析」, 第61回飛行機シンポジウム, 2023.

-ポスター

Suzuki, K., Frusawa, Y., Mamashita, T. and Kitamura, K., “Grid Resolution Study on Numerical Analysis of Propeller-Wing Interaction,” 34th International Symposium on Space Technology and Science, 2023

JSS利用状況

計算情報

  • プロセス並列手法: MPI
  • スレッド並列手法: OpenMP
  • プロセス並列数: 36 – 1440
  • 1ケースあたりの経過時間: 720 時間

JSS3利用量

 

総資源に占める利用割合※1(%): 0.47

 

内訳

JSS3のシステム構成や主要な仕様は、JSS3のシステム構成をご覧下さい。

計算資源
計算システム名 CPU利用量(コア・時) 資源の利用割合※2(%)
TOKI-SORA 7537874.43 0.34
TOKI-ST 1213778.14 1.31
TOKI-GP 0.00 0.00
TOKI-XM 0.00 0.00
TOKI-LM 106714.94 8.13
TOKI-TST 5.55 0.00
TOKI-TGP 0.00 0.00
TOKI-TLM 0.00 0.00

 

ファイルシステム資源
ファイルシステム名 ストレージ割当量(GiB) 資源の利用割合※2(%)
/home 571.67 0.47
/data及び/data2 66343.33 0.41
/ssd 8366.67 0.79

 

アーカイバ資源
アーカイバシステム名 利用量(TiB) 資源の利用割合※2(%)
J-SPACE 9.83 0.04

※1 総資源に占める利用割合:3つの資源(計算, ファイルシステム, アーカイバ)の利用割合の加重平均.

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

 

ISV利用量

ISVソフトウェア資源
利用量(時) 資源の利用割合※2(%)
ISVソフトウェア(合計) 3432.19 1.55

※2 資源の利用割合:対象資源一年間の総利用量に対する利用割合.

JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2023年2月~2024年1月)