大規模惑星集積並列N体計算:ガス円盤内での微惑星による原始惑星の外側移動
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)
報告書番号: R16J0053
- 責任者: 小南 淳子(東京工業大学地球生命研究所)
- 問い合わせ先: 藤本 正樹(fujimoto.masaki@jaxa.jp)
- メンバ: 小南淳子
- 利用分類: 宇宙分野(宇宙科学)
概要
地球や他の惑星は太陽が生まれたときに,その周りに円盤状に取り残されたダストが集まってできたと考えられます.しかし,現在のところ,理論的に,あるいは計算機シミュレーションを使って調べてみてもなかなか地球や木星のような惑星を持った系はできません.私はN体計算という方法で惑星ができる過程をシミュレーションし,現在の太陽系の惑星系がどのようにして形成されたのかの理解に近づきたいと考え,シミュレーションを行いました.
目的
ガス円盤の効果(ガス抵抗やタイプ1惑星移動)を入れることでより現実的な,ガス円盤を考慮した系での惑星集積シミュレーションを計算します.
目標
十分な粒子数をつぎ込んで計算を行うことにより,原始惑星がタイプ−1惑星移動(内側移動)に打ち勝ち,外側へ移動する現象をN体計算で観測することを目標とする.
参照URL
なし
スパコンの用途
本研究ではスーパーコンピュータ「京」においてKninja という新たな惑星集積並列計算コードを開発し,これまでできなかった大規模なN体計算を可能にしました.Kominami et al. (2016)では,惑星のもととなる原始惑星が太陽から徐々に遠ざかり,ある程度動いたところでとまる現象を再現することができました.このコードの重力を計算する部分をSORA-MAに対応するように書き換え,使用しました.
スパコンの必要性
これまでのN体計算ではGRAPEという重力多体計算専用の計算機を使っても粒子数が3万体が限度でした.しかし,動径方向に惑星が動くことやアイスラインを含めた広い初期条件から始める計算を行うためには少なくとも10万体ほど必要となってきます.この粒子数を計算するためにはスパコンを使い,並列計算を行う必要が出てきました.
今年度の成果
初期条件としてKominami et al. (2016) のセカンドステージで使用した初期条件と同じものを使用しました.ガス抵抗とタイプ=1 惑星移動の効果はKominami et al. (2005) で使用した表式を取り入れました.円盤外側へのPlanetesimal Driven Migration は途中まで起こるのですが,途中でタイプ1惑星移動に負け,u-turn を起こし,内側へ移動してしまいました.この現象は,以下のように説明できます.原始惑星は最初はギャップを埋めるという「キック」があるため,外側へ動き出します.しかし,外側へ動いている原始惑星のすぐ外側の微惑星が集積を起こし,大きくなっていきます.Planetesimal Driven Migration というのは,原始惑星と周囲の微惑星の質量比が〜100くらいないと起きない現象です.微惑星の集積が起こることにより,その条件が満たされなくなってしまいました.そのため,外側移動は止まり,内側への移動が開始してしまったと考えられます.

Fig.1:縦軸ランダム速度,横軸軌道長半径.真ん中の図は240000年,一番下の図は480000年のスナップショット.外側の原始惑星が途中まで外側移動を続けるが,途中で内側へ移動を開始する様子が見て取れる.
成果の公表
口頭発表
1) ポスト「京」萌芽課題シンポジウム
2) 国際氷天体ワークショップ
3) 衛星形成研究会
4) Japan-Germany Planet Disk Workshop
5) ポスト「京」萌芽課題キックオフミーティング
6) JpGU
計算情報
- 並列化手法: ハイブリッド並列
- プロセス並列手法: MPI
- スレッド並列手法: OpenMP
- プロセス並列数: 168
- プロセスあたりのスレッド数: 32
- 使用ノード数: 168
- 1ケースあたりの経過時間(時間): 60
- 実行ケース数: 3
利用量
総仮想利用経費(円): 3,280,059
内訳
計算システム名 | コア時間(コア・h) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
SORA-MA | 2,005,031.33 | 3,272,692 |
SORA-PP | 0.75 | 6 |
SORA-LM | 0.00 | 0 |
SORA-TPP | 0.00 | 0 |
ファイルシステム名 | ストレージ割当量(GiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
/home | 4.77 | 34 |
/data | 47.68 | 341 |
/ltmp | 976.56 | 6,985 |
アーカイバシステム名 | 利用量(TiB) | 仮想利用経費(円) |
---|---|---|
J-SPACE | 0.00 | 0 |
注記: 仮想利用経費=2016年度設備貸付費用の単価を用いて算出した場合の経費
JAXAスーパーコンピュータシステム利用成果報告(2016年4月~2017年3月)